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第10話
それはまるで時間が遡ったような、少なくとも直之の目にはそうとしか映らない光景だった。
目尻に薄く浮かぶシワや、髪に混ざる白いものもはっきり見えている。
けれどもそこに立っていた。あの頃のなつめが。
「何が、起きてるのかな……」
困り果てた声を上げ、彼はわずかに苦笑した。
その表情を見た瞬間、直之の目頭が熱くなった。
もう気持ちに迷いは無くなった。いま言いたいのはこれだけだ。
「お前の冷奴が食べたい」
あまりに唐突な物言いに、今度ははっきりと苦笑の表情を浮かべる。その両眼から涙がこぼれ落ちた。
「冷奴なんて、誰のでも同じだよ」
「違う──お前のだ。なつめの冷奴がずっと食べたかったんだ……これからもずっと」
「突然会えなくなって、突然現れて、突然……何を言ってるんだよ」
「わかんない奴だな。プロポーズしてるんだよ。今は男同士でも結婚するんだろ」
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