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第10話

それはまるで時間が遡ったような、少なくとも直之の目にはそうとしか映らない光景だった。 目尻に薄く浮かぶシワや、髪に混ざる白いものもはっきり見えている。 けれどもそこに立っていた。あの頃のなつめが。 「何が、起きてるのかな……」 困り果てた声を上げ、彼はわずかに苦笑した。 その表情を見た瞬間、直之の目頭が熱くなった。 もう気持ちに迷いは無くなった。いま言いたいのはこれだけだ。 「お前の冷奴が食べたい」 あまりに唐突な物言いに、今度ははっきりと苦笑の表情を浮かべる。その両眼から涙がこぼれ落ちた。 「冷奴なんて、誰のでも同じだよ」 「違う──お前のだ。なつめの冷奴がずっと食べたかったんだ……これからもずっと」 「突然会えなくなって、突然現れて、突然……何を言ってるんだよ」 「わかんない奴だな。プロポーズしてるんだよ。今は男同士でも結婚するんだろ」
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コメント
1件のコメント ▼
jyujin 2019/3/16

直之の立場的に閉ざしていた気持ち、解放して素直な気持ち、どちらも、すごく尊いもので、辛いもの、これからは、自分の人生かけて、楽しむのもご褒美だと思うな~。

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