10 / 10

第10話

それはまるで時間が遡ったような、少なくとも直之の目にはそうとしか映らない光景だった。 目尻に薄く浮かぶシワや、髪に混ざる白いものもはっきり見えている。 けれどもそこに立っていた。あの頃のなつめが。 「何が、起きてるのかな……」 困り果てた声を上げ、彼はわずかに苦笑した。 その表情を見た瞬間、直之の目頭が熱くなった。 もう気持ちに迷いは無くなった。いま言いたいのはこれだけだ。 「お前の冷奴が食べたい」 あまりに唐突な物言いに、今度ははっきりと苦笑の表情を浮かべる。その両眼から涙がこぼれ落ちた。 「冷奴なんて、誰のでも同じだよ」 「違う──お前のだ。なつめの冷奴がずっと食べたかったんだ……これからもずっと」 「突然会えなくなって、突然現れて、突然……何を言ってるんだよ」 「わかんない奴だな。プロポーズしてるんだよ。今は男同士でも結婚するんだろ」

ともだちにシェアしよう!