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第9話

通りに出た直之はすぐにタクシーを呼び止めた。 名刺の裏にある住所を告げ、シートに深く寄り掛かる。 自分は何をしている?この行為に意味はあるのか? ただ、自分達の時間はあの時に止まったままだ。 このまま引き返したほうがお互いの為じゃないのか? 考えが同じところをぐるぐると回る。 迷っている内に目的地に着いてしまった。 明るく輝くマンションの入口で立ち尽くす。 磨かれた大理石の床が自分を拒んでいるように思えた。 だがもうここまで来ると引き返したい気持ちよりも、一目で良いから会いたいという気持ちの方が遥かに勝っていた。溢れ返っていたと言ってもいいほどに。 何を言われても良い覚悟を決めて、直之はエントランスのインターホンを押す。 しばしの間の後、男性の声が聞こえてきた。 「──はい」 「夜分に恐れ入ります。斯波直之と申しますが──」 インターホン越しに息を飲む気配が伝わった。 沈黙が落ち自動ドアのロックが外れる音がした。 「どうぞ……お入り下さい……」

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