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第1話

 あの日口約束をした報酬を渡すと言われてウエストレッドのある屋敷に招待を受け、ゼオンは仲間と共に晩餐を前に目を輝かせていた。  立食形式のそれは予め知っていたかの様にゼオンの好きな物が並び、使用人達が様々なドリンクを彼らの元に運んできた。 「さすが王子様だよな!」  長く戦闘や逃走するばかりの旅をしていたゼオンは遠慮を知らないかの如く次々に皿を平らげ、側にいたアイリスにはしたないと叱られる。  小言を言われるのが面倒で適当な言い訳をしながらカクテルを手にゼオンはその場から逃げ出すのであった。どこまでも続くような廊下にオアシスを囲む中庭、上品なカクテルの一杯だけでは酔うことも出来ずにゼオンは中庭を散策していた。 「どうしたゼオン、晩餐は気に入らなかったか?」  不意に反対の廊下から現れたバラカの姿に何の警戒心も無くゼオンは駆け寄った。 「いや、小煩い女がいるから逃げてきた」  悪びれる様子もなく口を尖らせ不満を口にする。  年のわりに少年じみた仕草にバラカは少しだけ笑って、エスコートでもするかの様にゼオンの腰に手を回した。 「ならばこちらに来い。お前専用の食べ物を用意してやろう」  貴族嫌いでそう言う生き方をする人間には敢えて近寄らなかったゼオンは、自分の腰に回された手を不思議そうに見つめつつも言われるまま個室へと足を踏み入れた。  促されて椅子に腰をかけるとバラカが手を打ち鳴らして使用人を呼ぶ。それだけで大量の食料が運び込まれてくるのだから、ゼオンは貴族の暮らしに憧れる人間の気持ちを少しだけ理解した気がした。 そこから二人きりの晩餐が始まると二人は他愛もない会話を交わしながら、お互いの近況や仲間の話をした。空けたグラスの数が増えるごとにバラカは何故かゼオンの隣へと座る場所を変える。  酔いが回りだしたゼオンは、普段ならば警戒していても可笑しくない行動に疑問も持たずおかわりを要求した。 「ゼオン、飲み過ぎではないのか?」  グラスを持ったままおかわりの要求で立ち上がったゼオンがよろけるのを支えつつ、抱き止めるとトロンとしたゼオンの視線がバラカを見上げた。 「この程度、酔わねぇよ!」  強がる言葉とは裏腹に随分と心地よく酔っているのかヘラヘラと笑う。 「そうだな、この程度の薬で潰れるような男ではないな」  不意に釣り上がるバラカの口元を見てゼオンはこれが罠だったのだと今更気付いてしまった。 「バラカ!テメェ…オレに、何しやがった!?」  本能的に逃げなければ、とバラカの体を突放そうとしたゼオンは自分の体に力が入らない事を知った。 「安心しろ、これは報酬の一部だよ…殺しはしない、気持ちよくしてやるだけだ」  簡単に抱きあげられたゼオンは長椅子の上に転がされて服を脱がされる。 「やめっ何してやがるっ」  抵抗したいのに体は火照って力が入らない。何とかバラカの肩に手を置くものの、それ以上はどうにもならなかった。  ちゅ、と音を立てながら胸の突起を吸われるとゼオンの背中は弓形にしなって跳ねる。まるでそこだけ神経が剥き出しになっているのかと錯覚するほど、舌の暖かく柔らかな感触で包まれ吸われるとそれだけで電撃が走るように感じた。 「なっ…ぁっ、く…」  自分の体の思わぬ反応に戸惑いながらも、断続的にバラカの唇と指で与えられる快楽に目を閉じて彼の肩を掴んだ。舌を動かし突起を舐められるだけで自分の股間が熱く熱を帯びている事に勘づいてしまう。  嘘だ嘘だと否定する様に首を振っても、胸から股間へと滑り降りるバラカの細くしなやかな指で形をなぞられては自覚せざるを得ない。  そのまま簡単にズボンや下着まで剥ぎ取られて、上着だけの姿にされたゼオンは羞恥に頬を染める。屈辱にも近い感覚があるせいなのか、閉じた瞼の先でまつ毛が小刻みに震えていた。 「安心しろ、ゆっくりと手間をかけて慣らしてやる…夜はまだ始まったばかりだ」  何をするのかと恐る恐る瞼を開けたゼオンの視界に映るのは、膝の間に体を滑り込ませたかと思うと軟膏を指ですくい無防備な菊座に押し当てる姿だった。  冷たい感触がしたのもつかの間、すぐに下半身に妙な感覚が走る。侵入してくる異物に身体は拒絶反応を示しているのか、排泄欲がジリジリと湧き上がってくるのを感じた。 「っ…バラ、カ…何か、変な感じする…やめて、くれ…ンッ!」  言葉による否定は効力が無く容赦なくバラカの指は肉壁を磨り上げて軟膏を塗り込むかのように蠢く、細く骨ばった指が何かを探り当てるように動く中で中指の第2関節まで埋め込んだ辺りでふっくらとした丸みを帯びた箇所を見つけた。 「ひっ!…っあ!な、やっ…あ、くぅ…ぅっ!」  突然見つけられた性感帯への刺激の強さにひときわ大きな声で悲鳴を上げたゼオンが目を見開く、未知の感覚に腰が引けているのを見たバラカは少しだけ何かを逡巡させてゼオンの腰を空いていた手で支えるように掴んだ。 「怯えなくていい、すぐに慣れるさ」  尾てい骨の辺りに力を込めてゼオンの腰を少し持ち上げると、指の感触だけを頼りに前立腺をマッサージするようにゆっくりと揉んで刺激する。指で押し上げるたびにビリビリとせり上がる強い快楽に怯えるゼオンの腰が逃げようと暴れそうになるのを見計らってバラカは中心で起立する男根を咥えこんだ。  何の躊躇いもなく亀頭から割れ目をなぞって根本まで吸い付いたのだ。  じゅるじゅると卑猥な水音を立てて上下する顔の動きに合わせて舌と唇がビッタリとゼオン自信を包んで適度な快楽を生み出す。男根への刺激と中を弄られる違和感がごちゃまぜになってゼオンの脳天を突き抜ける。  味わったことのない快楽の波にゼオンの肢体はくねり、藻掻くように長椅子の上に敷かれていた織物を掴んで脚はつま先立ちになる。突然与えられたそれらの大きなうねりに恥じらいという感情は霧散して、感じるがままに嬌声をあげた。 「うああっひっ…んんっ…バラ、カ…!バラカァ!」  自分の全身を襲うその感覚が快楽であると知りながらも、声にならない声で怖いと快楽なれしてなさを露呈する。ゼオンの幼さに、性急に求めすぎただろうかとバラカはエメラルドグリーンの瞳を向けて考えた。  だが、自分の名前を呼びながら今にも泣き出しそうな声で助けを求めるゼオンの姿は酷く劣情を煽るのだ。  その一挙手一投足が自分に犯してほしいと示しているような錯覚をしてしまいそうになるほど、バラカはゼオンと言う男に強い興味と好意を抱いている。言ってしまえば一目惚れのようなものだと自覚しているが、その出会い故に多少強引な手を使ってでも手に入れたいと画策してしまった。  見事に罠に自ら転がり込んできたゼオンの気の許し方に危うさも覚えるほど、他人の下心に鈍感なゼオンの身体に教え込んでやろうと考えてしまうのだ。 「簡単に人を信用するからこうなるんだ…ゼオン、俺以外には身体を許してくれるなよ」  唇を離してにんまりと笑うバラカの言葉の意味も理解できずに、ただゼオンは気付けば指の本数を増やされ中を押し広げるように動くそれらの感触に首を振って堪えるしか出来なかった。  足元から迫ってくる快楽と射精したいという本能的な願いがゼオンの身体を蝕み追い立てる、男根がそれに呼応してぴくんと跳ね上がる。 「はぁ!!…う…ああ…も、出る…出ちまうっ!」  バラカからのフェラチオによる刺激が無くなったせいなのか、ゼオンは無意識に自分で男根に手を添えるとそのまま自慰をする様に手を上下に動かし絶頂を求める。慣れた行為のはずなのに内側から前立腺をイジられている違和感のせいなのか、興奮剤の副作用なのかゼオンの手は拙く動いていた。  欲しいと思っていた男が恥じらいもなく自ら男根を扱いてまさに達しそうになっている。  バラカは念入りにゼオンの中をほぐしながら興奮を抑えきれず、自分自身が布を持ち上げて先走りすら垂らしている事に気づく。性別など些細なことだとバラカは自身の欲望を正当化する、食い入るように自力で絶頂を向けようとするゼオンに魅入りながら。  怯えの感情が減ったのか懸命に自身をこするゼオンの身体が大きく震えて、足の指先がぎゅっと丸められて腰が高く持ち上がった。 「あ、ああっ…ふあぁぁぁっ!」  ゼオンの手の中に放たれた白濁の本流は収まりきらずに腹を濡らし、勢いよく飛んでいく。程よく鍛えられた筋肉の上を滑るそれを指で掬いながらバラカは興味本位に口へと運んだ。  絶頂を迎えた余韻の中、全身で荒い呼吸を繰り返していたゼオンはぼんやりとその光景を見ていたのだが不意にバラカが口に入れたものの正体を思い出して身体を起こした。 「バラカ!おま、お前!!!」 「…ん?どうした、そんなに慌てて」  ゼオンの反応にクスクスと肩を揺らしながら笑って少し青臭いな、と感想を口にすると途端にゼオンの顔が真っ赤に茹で上がる。 「せーえき、舐めるとか…信じらんねぇ…」  プイ、と頬を膨らませながら顔を背けるゼオンの目に浮かんだ涙を指で拭ってやった。 「お前のだから興味がある…と言えばわかるか?」 「え…?」  思っても居なかったであろう答えに戸惑い、バラカの顔を見つめるゼオンの目には疑念が宿っている様にしか思えない。 「分からないか?お前自身に興味があると言っている」  こう言う意味でと付け加えながらバラカはゼオンの頬を両手で包み込んで額に唇をそっと触れさせる、それは額だけでは終わらず瞼や鼻の頭と繰り返された。  だが、一箇所だけ触れそうで触れない距離を保って離れていく場所がある。ゼオンの唇だ。  キスをされるのだと直感した彼は思わず目を瞑ったというのに、バラカは寸止めをして離れていくのだった。 「…っ!」  期待していた様な行動をしてしまった自分に恥ずかしさを覚えたのか再びゼオンの頬に朱が走る。  そっちはまた今度な、と余裕の笑みを浮かべるバラカの手が頬を離れたかと思うとゼオンの両足を広げるように太ももを押しのけゼオンの腹の上にまだ残っていた精液を舐める。 「やめっなめん…あっ…は、ぁ…ッ!」  ヘソから更に下へ滑り降りていく感触にくすぐられて身を捩りながらもゼオンは不意に思い出す、先程まで熱に浮かされながらも何をされていたのかを。 「ゼオン、しっかりと解したからな…無駄に抵抗さえしなければ苦しいのは少しだ」  視線を向けた先に見えるバラカのズボンと呼んで良いのか疑いたくなるほど大きく太ももが見える不思議な布と、股間を隠すように垂れていた布が取り払われ出てくるのは随分と使い込まれている色をした肉棒だ。  その色もそうだったが、十分に起立しているまさに臨戦態勢が整っていると言う事がゼオンにとって衝撃的だった。 「お、お前…それ…オ、オレで勃起ったの…か?」 「ん?当然だろう、お前を欲しいと思わなければこんな手を打たない」  言いながらバラカはアナルをほぐすために使っていた軟膏を自分の逸物に塗りつけている、手際の良さに呆然と見ていたゼオンだったがいざ自らの菊座にそれが充てがわれるとゴクリと生唾を飲み込んだ。 「あまり無茶はしないつもりだが…痛ければ言うんだぞ」  子供に言い聞かせるかのようにゼオンの前髪を掻き上げて額に口づける、そのバラカの表情は今まで見ていた余裕のあるソレではなかった。  エメラルドグリーンの瞳が潤んだように熱を帯びて、じっとゼオンの表情を伺っている様に見えた。  本気なんだと感じ取った瞬間、ゆっくりと亀頭が孔を押し広げて侵入を始める。バラカに個室へと案内された時から期待していたのかも知れないとゼオンはバラカの肩に手を添えながら想う。  他人には決して言えない性癖を暴かれる怖さと悦びを、酒に混じって香る薬を盛られているのだと気付いた時から足元を掬われていたのだろう。 「はぁ…う、んん……はいって、くる…っ!」  気を使ってゆっくりと押し込まれる亀頭の一番太い部分がぐぷり、と菊座を通り過ぎると後は嫌でも中が感触を思い出して貪ってくれる。少しずつ圧迫されていく息苦しさに間隔が短くなる呼吸。 「力を抜け、っ…進めない…」  何年使ってなかったんだろうかとゼオンは頭の片隅で考えながら気を逸して下半身の圧迫感をやり過ごそうとするが、オナニーをする度に感じていた物足りなさを埋める質量に全身が震えてしまった。 「あっああぁ!…バラカ…バラカ、いいからっ…うご、い…てっ」  気遣いなど要らないとでも言う様にゼオンの足がバラカの腰に絡みつき、肩に添えるだけだった腕もバラカの頭を抱え込む。少しぐらい痛くても構わない、その言葉はうまく言えなかったが自分の行動で察してくれたのかと思うほどバラカの逸物が一気に隙間を埋めていく。  焦らされて狂いそうな所で突き入れられたそれは太く熱い、ゆったりとしたストロークが始まるとゼオンはもう他のことなど何一つ考えられなくなっていた。  自分が男を欲しがっているという事実をひた隠してきた意味も理性も、カリに押し上げられて前立腺が刺激されるだけでまたゼオンは鎌首をもたげてしまう。  気持ちいいと言う言葉だけが頭の中を支配して、腰を振ってしまっていた。  最初こそゼオンの顔を色を伺うように腰を押し進めていたバラカもがっちりと腰をホールドされ、ゼオン自ら腰を揺らして快楽を得ようと動いている事に気づいてからは理性を頭の隅に追いやった。 「ゼオン…可愛いヤツ…っく、ぅ…誰に使わせていたんだ…?」  抜けそうなほど腰を引けば中から肉棒が出ていくのを拒むようにゼオンの腰が追いすがる、指で慣らした時は逃げ出そうとしていたのが嘘かのように吸い付いてくる。大きく腰をグラインドさせて叩きつけるように激しく奥まで突き上げてやればゼオンは一際悦い声で鳴いた。  お互いの腹に潰される形になっているゼオンの肉もはち切れんばかりに膨らんで先走りをお互いの皮膚の上に撒き散らしている。バラカはこみ上げる熱に浮かされた言葉をすんでの所で飲み込みながら、断続的な喘ぎ声を漏らすゼオンの、血色の良い唇に貪り突きたい衝動を抑えて腰を叩きつけた。 「あ、んっ…ひ、ぃッ…!きも、ち…いいっ…アッ…あぁぁっ!」  揺さぶるほど乱れていく姿にもっと甘い声を引き出したいとバラカは絡まっていた足を力任せに解いて、ゼオンの身体を横に向けると右足を高く掲げるような格好にさせて再び突き上げる。正常位とは違う場所を刺激されて長椅子の上に敷かれた布を手繰り寄せて噛み付いた。  ひっきりなしに上がる自分の声をそうして抑えようとでもするかのように、噛みつきながら身体を丸めて激しく突き上げられるゼオンの仕草の一つ一つに愛しさを感じてバラカの逸物が更に体積を増した。  ぎちぎちと締め付けてはねっとりと絡みつく肉襞に包まれ、我慢できなくなっていたバラカは小刻みに腰を叩きつける。リズミカルに腰を回して中を掻き回すと、先にゼオンの身体が大きく跳ねて口に咥えていた布を噛み締めて背中を弓なりにしならせた。 「ううぅ―――ッ!!」  くぐもった悲鳴を上げながら二回目の絶頂を迎えたゼオンの中が酷くバラカを締め付けて、搾り取るかのように蠢く。 「ゼ、オン…ッ!!」  堪えきれなくなったバラカもまた天を仰ぐように身体をしならせ、ゼオンの中に欲望のマグマを吐き出していた。  注ぎ込む熱の奔流に小さな吐息を吐き出しながら受け止めるゼオンは、何とか視線だけで絶頂を迎えたバラカの姿を盗み見ている。さらけ出された細くしなやかな首の中腹にある喉仏が上下し、肩は乱れた呼吸のせいで落ち着かない。  何もかもが自分の知るバラカとは思えない仕草で、顎から首筋に流れる汗すら違う世界を見ているようだった。  こんなに綺麗な男に抱かれたのかと冷静に考え、ゼオンは自分の感想が随分と乙女のようだと恥ずかしくなる。 「…は、く…ぅ…ゼオン、ゼオン…」  射精の余韻に震えながら繰り返し名前を呼ばれるのがくすぐったい、くすぐったいが同じ様に名前を呼びたいと思えてしまう。まるで縋るように、親愛ではない感情を込めて呼びたくて仕方なかった。 「…バラカ…」  見つめる視線に気づいたバラカはゼオンの身体を抱きしめながら起こして頬を擦り寄せる、触れてくれない唯一の箇所に対する不満は不安にすり替わってにじり寄ってくる。ゼオンはバラカに抱きつきこんなにも満たされているのに、欲しいと言いながらどうして突き放すような真似をするのかと分からなくなって泣きたくなった。 「…ゼオン…すまない」  急に謝罪を口にするバラカに視線を向けると困ったような笑顔でゼオンを真っ直ぐに見据えている事に気づいた。 「なんだよ、急に」 「お前に謝っておく。今日はどうしても俺がお前を欲しくて罠を仕掛けた。酒に薬は盛ったしお前の過去も調べてある…」 「…知ってたのかよ…オレが傭兵団の雑用してた時の事」 「ああ、経験があるのを知って俺は心が踊った…一晩でもお前を抱けると」  そこまで言ってバラカはもう一度ゼオンの身体を強く抱きしめる。  まるで何かを決意しているかのように見えた。 「だが、一度きりなどと考えが甘かった…ゼオン、お前を手放したくない。誰にも渡したくない…夜が明けぬ事を願ってしまっている」  向けられる視線の真摯さにゼオンは息を呑んで、少しだけ戸惑う。  相手が男だからではない。  継承権を放棄したとは言えどもバラカはウエストレッドの王族だ、そして王宮騎士でもある。そんな男がたった一度の協力関係だったトレジャーハンターなんて、言ってしまえば卑しい身分の自分に告白まがいの言葉を囁いているのだ。  一夜の気晴らしなどではないと今夜の出来事を釈明しているのだからゼオンには戸惑いが生まれるのも無理からぬ事だった。 「…バラカ、オレはお前の気持ちに答えられるか分かんねぇけどよ…その、気持ちよかったし?お前がオレの船に乗るっていうなら考えてやらなくもねぇな」  素直に嬉しいとも言えずに口走ったゼオンの言葉に対してバラカは驚きを込めた視線を向ける。 「お前の…船に…まさか、お前から誘われるとは思わなかった」  人間の表情とはこんなにもはっきりと分かるものなのだろうかと思うほどバラカは喜色満面でゼオンの髪に顔を埋めている。顔を擦り寄せてこんなに嬉しいことはないと安堵さえしていた。 「…って、テメェ…オレの中に入れたまま大きくしてんじゃねぇよ!」 「悪いな、安堵したらお前の中に入れたままだった事を思い出してな…夜明けまでゆっくり楽しませてやろう」 「ちょっまっ…バラカ!…アッ!!」  くるりと向きを変えさせられたゼオンはそのまま長椅子にうつ伏せるような体制にさせられると、バラカが背中からのしかかってくる。両手を上から包み込んで少しずつ腰を振れば隙間をぬってゼオンの腸内からバラカの精液が粘り気を帯びて溢れ出す。 「だ、めっ…腹ん中でこね回すなぁ…ッ!!」  弱々しい抵抗を見せながらも腰は上がったまま緩やかな挿入に反応している。もう一度潤滑剤を塗り直すかと考えたが、腰を揺らせば中で自分の吐き出した白濁のそれが溢れ出てくる状態だ。  まるで犬か猫の交尾のような格好だと笑いそうになるが、バラカはわざわざ自分が感じやすい位置を教えるように尻を上げているのであろうゼオンのいじらしさに自身が肥大化するのを感じた。  何をどうしたらこんなに快楽にだけ素直な体が出来上がるのかと、僅かな嫉妬を込めて体位を変えた事で先程とは違う快楽に翻弄されて指を噛もうとするゼオンの口の中に自分の指をねじ込んだ。 「あがっ…バラ…んっ…」 「噛みたいなら俺の指にしろ」  下顎をがっちりとホールドされてだらし無くヨダレを垂らしながら、閉じる事を許されない口の中で行き場のない舌がバラカの指を舐める。片手は自由になっというのに後ろから突き上げられて自重を支えるために動かすこともまならなかった。  情けなくなるほど頻々に挙がる声と荒々しいお互いの呼吸に混じって、精液の上を滑るように出し入れられるバラカの一物と自分の肉襞が擦れ合う水音を聞いた。  視線を下に向ければ見えるのはぐしゃぐしゃになった敷布と、突かれるたびに揺れて先走りの汁をだらし無く飛ばす自分のモノだ。 「ゼオン…何を、考えている?」  ただ下を向いているだけだった事で何か勘付いたのかバラカの指が不意にゼオンの根本を締め上げた。 「ひゃうっ…うぅ!…バラカッやううっ!」  下顎を掴まれているせいで動く喋れないゼオンの抗議も聞き入れないかの様に、バラカは先端の割れ目に爪を食い込ませながら後ろからは容赦なく突きあげる。せき止められる苦しみと背中を駆け上がる快楽の2つが、ゼオンの中で激しく葛藤しせめぎ合う。声を出してバラカの指を何とか噛んで振りほどこうとするも、こんな細くしなやかな手にそんな力があるのかと驚くほど動かない。デタラメに腰を振った所で繫がっているせいで何もかもがただ快楽として自分に跳ね返ってきた。  登りつめる感覚が強くなって目の前はスパークした様に点滅する。頭の中に浮かぶ言葉はただ1つ。 「いくっ…も、イッ…ッ!!」  射精の伴わないドライオーガズムに戸惑いながらも、体を大きく震わせて背中を丸める。傭兵団の雑用をしていた時期にも確かに手酷い犯され方をしたが、このような快楽を与えられるのは初めてだった。  一人になって何度か夢想した、暴力ではない交わりにこんな快楽があるとは知らなかったのだ。  ゼオンが達したのを見届けてから顎から手を離すバラカの表情を盗み見れば、満足そうな笑みが零れていた。 「はっ…は…っ」  何とか手足で自分を支えられてはいたが、今にも崩れ落ちそうなほど力が入らない。まだ根本は締め上げられていて!行き場のない精子が自分の中を巡っているような、そんな想像をしてしまった。  そんな苦しさと愛しさで乱暴にかき乱されたゼオンの中からバラカは自身を引き抜いた。 「んーっ!…は、あ…えっ」  引き抜くだけでも感じてしまうのか背中を反りながら震えて、遂には体を支えきれなくなったのかゼオンの体が崩れ落ちた。  びくびくと痙攣しながら視線を彷徨わせるゼオンの陰茎から指を離すと、勢いこそ無いものの溜まっていた精液が少しずつ押し出されていく。 「アーっ!あ、あぁ…で、ちゃう…ッ!やだ、こんなの…やだぁっ…」  まるで子供が駄々をこねるような声で首を振りながら射精でまた達してしまう。自分の体を制御できない事に泣きそうな声を出してバラカの方を見ると、頬を高揚させ舌なめずりをする姿が見えた。  こんな情けない射精をして震える自分の何がそんなに煽るのか、分からないことに対する恐怖がじわりと広がった。 「バラカ…助けて、くれ…バラカ…」  手を伸ばすとそのまま体を引き上げられて、長椅子に座るバラカに正面を向けて膝に乗る形になった。 「感じすぎて怖いか?可愛いやつだ…だが、あまりイジメてやるのも嫌われては敵わないからな…」  ポロポロと涙をこぼすゼオンを宥めるように頭を撫でながら、目尻に唇を寄せて涙を吸ってやる。そのまま少しお互いに見つめ合うとバラカは、その夜初めての口付けをゼオンに送った。  最初は触れるだけの、次第に薄く開いたゼオンの唇の隙間から滑り込んだバラカの舌が歯をなぞり上顎をくすぐる様に動く。鼻から抜ける甘い吐息混じりの声を落としながら、バラカの首筋に腕を絡めてもっと深くと求めるように自ら舌をさし入れた。  お互いの唾液を与え合うように何度も絡み合う舌と水音に酔いしれ、夢中になって貪り合う。 「…ゼオン…」  僅かに唇が離れた合間に呼ばれる名前は、甘美な響きを伴い頭の芯が痺れる。  いつの間にか腰を抱いていたバラカの手が尻をこねるように撫でながら、菊座を押し広げようとしていた。  まだ残っていた精液がゆっくりと垂れていくと、バラカの首元に顔を埋めて体を震わせる。宥めるようにバラカはゼオンの髪に口付けながら自身を片手で固定し、菊座にくっつけた。  入口はひくひくと挿入を待ちわびる様に開閉を繰り返して、バラカの肉棒に吸い付いた。 「っ…バ、ラ…カ…ッ!」  亀頭が侵入を始めるとゼオンは自ら腰を落としてその熱を欲しがる、雁首が肉を押し広げて進むと快楽に慣らされた直腸が男根を歓迎するように蠢いた。  根本付近まで入りきった瞬間、グイッとバラカが腰を動かし突き上げるとゼオンは反射的にしっかりと背中に爪を立ててしがみつく。耳元で聞こえる甘やかな矯声に目を細めて腰を支えていた手を離すとゼオンの自重で深々と奥まで抉った。  ゴリッと言う音が体内から聞こえた気がした。  敏感なスポットを刺激しながら出入りする肉棒の圧迫感に溺れそうになりながら、ゼオンはバラカの肩口に歯を立てる。無意識に噛む物を探していたのか、前立腺を刺激されて気持ち良くなると噛み付いた。  強くゆさぶればそれだけ犬歯が食い込みバラカは痛みを堪える、首元と背中に回っている手も爪が皮膚に食い込んでいく。  何度も名前を呼びながらすがり付いて快楽に溺れていくゼオンに煽られるように腰の動きも激しさを増していった。 「うぁあっ…きも、ち…いっ…んんっ…ッ…あ、また…イッ…!」  先程のドライオーガズムがまだ尻引いているのか、ゼオンの中は締付けが強まったり弱まったりを何度も繰り返している。その度に噛み付く力は弱まっていく。  体力が無くなっている証拠なのだろうと思いながら、しっかりとゼオンの腰を捕まえ乱暴にデタラメな動きで突き上げる。心地良い締付けと包み込むような感触をずっと堪能したいと言う思いとは裏腹に、バラカもまた絶頂が近付いていた。 「ゼオン…ゼオン、もう出す…うっ…く、あ…」  一際強く激しく腰を叩きつけてピストンし続けるに従い、ゼオンの男根の先からはだらしなく精液が流れ続けて二人の腹を汚している。  激しさに息を呑み快楽を溢さず拾おうと自らも腰を振る、ゼオンの腰を掴んだまま抜けるほど引き抜いてから一気に根本まで叩きつけるとそのままバラカは絶頂を迎えて熱を吐き出した。 「あぁーっ!!」  胸を押し付けるようにして背中を反り、しがみつくように立てていた爪がガリッと皮膚を裂いて滑り落ちていった。  暫し余韻のように全身を震わせていたゼオンの身体から力が抜けると、バラカは慌ててそれを支えてやる。 「…ゼオン…大丈夫か?」 「は…ぁ、う…も、むり…イきすぎて、足が…ヤバい」  呼吸を整えながら何とか声を絞り出すゼオンの瞼や頬に口づけを降らせながら、慈しむように髪を撫でる。  優しく自分を抱きしめる腕に全身を任せながら、ポツリポツリとゼオンは身の上話を始めた。  初めは強姦も同然だった事、団長の目を盗んで何度も関係を迫られていた事。その団長が死んで解散した後次に出会った師匠とは良好な師弟関係を築けたものの、その頃には前だけ弄っても物足りない体になっていた。 「だから最初はあんなに怖がっていたのか?」 「そーだよ、無理やりされた時のこと思い出しちまって…」  僅かに言い淀むゼオンにバラカは眉を寄せて頬を擦り寄せた。 「そうか、辛い記憶を思い出させたな」 「気にすんなよ…気持ちよかったし。こんなに大事にされたの初めてだし」  所在なさげに視線を彷徨わせながら言う言葉に、バラカは胸を撫でおろしながら今一度抱きしめる。 「…充たされるって…こう言う事なんだな」  恥ずかしそうに呟く唇を塞いで、お互いの感情を確かめあう。ただ重ねるだけの唇から伝わる熱にゼオンは安心していた。 「どうしてオレなんだってずっと憎んでた…でも、バラカはオレが、いいんだろ?」 「そう、お前がいい…その目を俺に向けて俺の名を呼ぶお前が欲しい。お前だからこんなにも胸を焦がす…」 「うわ…臭いセリフ…でも、オレもお前がいいよ…多分、お前と同じ…一目惚れだ」  ようやく自分が最初から嫌悪感もなく目の前の男に抱かれたのかを思い至ったゼオンは、照れくさそうに笑った。

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