5 / 14

『『だめんず・うぉーく』を止めるとき』エピローグSS・昴太視点その3

「別にそんなんじゃねえけど……」 「じゃあ一緒に入ろう?」 「――分かったよ。でも、風呂場でスルのは無しな? のぼせそうだから」 「構やしないよ。僕は、昴太が安心して入浴してくれれば、それで十分」  彰が、にっこり微笑む。何だか照れくさくなった俺は、それを誤魔化そうと、入浴剤を手に取った。 「しかし、随分種類があるんだな。俺、全然知らなかった」 「うん、僕も知らなかったんだけどね。だからお客さんに聞いたんだよ。こういうのは女性の方が詳しいかなと思って、相談してみた」  俺は、あっと思った。  ――もしかして、この前長話してたのって……。  自分は何て馬鹿なんだろう、と俺は思った。彰は、こんなにも俺のことを考えてくれていたのに。そう思うと俺は、何だか泣きそうになったのであった。  しかし、数十分後。 「おい。スルのは無しって言ったろうが!」  湯船に浸かりながら、俺は口を尖らせた。 「別に何もしていないじゃないか?」  俺をしっかりと背後から抱きしめながら、彰が答える。 「嘘つけ。硬いの当たってんぞ!」 「そりゃ、若い健康な男が、愛する恋人と裸で密着しているんだから。そうならない方がおかしいでしょ?」  彰がクスクス笑う。俺はため息をついて、奴の方を振り返った。 「ま、キスくらいならいいぞ?」  ――あんまり、我慢させるのも可哀そうだもんな……。  目を閉じて、彰の唇を待つ。しかし予想に反して、彰の唇は俺のそれには重ならなかった。彰が口づけたのは、俺の閉じた瞼の上。  ――これって……。  俺は、その意味を聞いたことがあった。閉じた瞳の上への接吻は、『憧憬』を表すのだと。  ――気障なことしやがって……。  でも俺は、そんなこと知らないふりをして、彰の胸に身体を預けたのだった。 出典:グリルパルツァー名言集 http://kakugen.aikotoba.jp/Grillparzer.htm

ともだちにシェアしよう!