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『『だめんず・うぉーく』を止めるとき』エピローグSS・彰視点その1

 本編ネタバレ注意。  そう、僕天花寺彰だって分かってはいるのだ。一人息子がゲイだと知っても文句の一つも言わないどころか、その恋人を受け入れてくれるような寛大な母親なんて、そうそういないってことを。  ――しかし、これはさすがに。  愛する恋人・昴太と二人暮らすアパートの玄関に足を踏み入れた途端、僕は深い深いため息をついたのであった。 「あら彰、お帰り。あなたの分も取ってあるわよ」  そこには、我が物顔で部屋に入り込み、あまつさえ昴太の手料理を堪能している、母・詩織の姿があった。 「お母さん。またいらしてたんですね」  棋士を休場して囲碁サロンのオーナーとなった後も、僕には度々イベントへの出演依頼が寄せられた。それはひとえに、棋士時代に積んだ実績の賜物であろう。さらに、僕の話し上手なところを買われて、講演の依頼も入るようになった。  そんなわけで僕は今回も、九州まで講演旅行に行っていたわけである。昴太の顔を見られるのは、実に四日ぶり。昴太の手料理を味わって、その後は昴太自身も味わって……なんて期待に胸をときめかせていたというのに。  それなのに、一体この現状は何なのだろう。何故僕よりも先に母が昴太の料理を食べているのか。そして、彼女の横の大荷物を見る限り、今夜はここに泊まるつもりだろう。  ――絶対、嫌がらせだ。

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