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『『だめんず・うぉーく』を止めるとき』エピローグSS・彰視点その2
僕の非難めいた口調など意にも介さない様子で、母は昴太の作ったオムレツを美味しい美味しいと爆食している。
「昴太くんて、本当にお料理上手よねえ。いいお嫁さんをもらえて嬉しいわ」
「いえ、大したことないですよ」
そうは言いながらも、昴太もまんざらでもなさそうだ。僕が前に彼を新妻と呼んだ時は、確か肘鉄を喰らわされた気がするのだが。
「彰。あなた、昴太くんばかりに作らせてるんじゃないでしょうね? あなたもちょっとはやりなさいよ」
挙句に彼女は、こんなことを言い出した。
「生憎、料理は不得手でね。どなたかに似たんですよ」
世の中の大概のことは要領よくこなせる僕であるが、唯一料理だけは苦手なのである。そしてそれは、確実に目の前の女性のDNAのせいなのだ。
「でも、彰は他の家事をやってくれますから。特に俺は掃除が苦手なんで、任せちゃってて」
さすがに僕に気を遣ったのか、昴太がフォローしてくれた。あらあらお熱いわね、とでも言いたげに母が意味深な笑みを浮かべる。しかし、僕が安堵したのも一瞬であった。
「じゃあ、昴太くん。この後私と一局打ちましょうよ」
「えっ、今からですか!」
大声を上げたのは、昴太ではなく僕だ。
「そうよ。昴太くん、あまりプロと打った経験が無いから、打ってみたいって前に言ってたじゃない」
――そりゃ社交辞令だろうが!
僕は、次第にこめかみがひくついてくるのを感じた。
「プロならここにもいるんですが」
「ええ、長期休場中のね」
「……」
「ハイ、決まり。彰は食事まだなんでしょ。そこで食べてなさいよ。ああ、時間ならお構いなく。ちゃんとこの通り、お泊りセットを持参済みよ」
――やっぱり。
和気あいあいと打ち始める母と昴太の姿を眺めながら、僕は自分用に取り置かれたオムレツを食べ始めたのだった。二人の関係が良好なのは喜ばしいが、やはり今夜は昴太と二人きりが良かったな、と思いながら。
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