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『だめんず・うぉーくを止めるとき』番外:『手作りバレンタイン』~その6~
「将棋研究会の後、残って教わってたんだよ。お菓子作りの得意な女流さんがいてね、バレンタインまでの間、特訓してもらった」
俺は、あっと思い出した。研究会から帰った彰が、口から甘い香りをさせていたことを……。
――道理で、香水の香りも移ったはずだ。
今まで疑っててごめん、と俺は心の中で謝った。
「ちなみに、今日の研究会はお礼の品を差し入れに行っただけ。チョコをくれようとする女性もいたけど、断ったよ。恋人からしかもらわないつもりだって」
じん、と胸が熱くなる。
「――それで、今日は帰りが早かったんだ?」
「うん。昴太もご馳走作ってくれてたみたいだよね? ありがとう。一緒に食べよう」
俺たちは、二人仲良く食卓を囲んだ。俺の作ったビーフシチューやサラダと、彰の作ったチョコケーキ。彰はシャンパンも用意してくれていて、昼間から二人で飲んだ。
「最高のバレンタインだな」
俺が呟くと、彰もうん、と頷いた。
「あ、そういえば昴太に確認したいことがあるんだけど」
「何?」
「昴太は誰かからチョコはもらったの?」
おいおい、と俺は苦笑した。
「みんな俺がゲイだって知ってるって。それなのに渡す物好きなんて……」
言いかけて、俺はリカちゃんがくれたチョコのことを思い出した。
――いやいや、小学生の女の子からのなんて、ノーカンだろ……。
だが彰は、何か勘づいたようだった。
「もらったの?」
「まあ、今日指導に行った先でさ。でも、小二の女の子だぜ?」
途端に、彰の顔が険しくなる。
「小二でも、女性は女性だろう……。へえ、僕が全部チョコを断ったというのに、昴太はもらったんだ?」
「アホか! 何妬いてんだよ!」
思わず椅子ごと後ずさりすれば、彰は身を乗り出してくる。
「――今夜はお仕置き決定だな」
ぼそりと低く囁かれて、俺はため息をついて見せる。でも、心の中は何やら甘い感情でいっぱいだったのだった。
おしまい
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