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プロローグ

「この子はベータですね」 鑑定術士の言葉に両親が安堵したことは今でも覚えている。言葉の覚えも遅く、手先が不器用だった僕は両親から「オメガなのではないか」と大層心配されていた。僕は他の子どもよりも発達がゆっくりなだけで、オメガではなかった。ベータだのオメガだの、何を意味するかは当時子どもだった僕はわかっていなかった。けれど、今となっては知っている。 神は人間に男女と、もう一つの性を与えた。それがアルファ、ベータ、オメガの三種類である。この事は幼年学校の中等部になってから教わった。アルファは優れたリーダーシップを持ち、社会のありとあらゆる要職に就くことが可能なエリート気質である。僕のようなベータは言ってしまえば普通の人間。可もなく不可もなく、と言ったところだ。そしてオメガはアルファやベータよりも数が非常に少ない特異体質を持つ希少種。特異体質を持つがゆえに社会的弱者として扱われがちなオメガは、エリートであるアルファの庇護を受けるのが一般的だと習った。 これもまた、遠回しな言い方だ。嘘ではないが、真実とは言えない。 けれどまあ、正直ベータである僕にはアルファとオメガの関係なんて無縁な話だ。知っていたところで何になろう。他人事、無関係、凡人が首を突っ込むことではない。突っ込んだところで突っぱねられて終わり。突っ込んだことも無いけどね。 本当に、関係ないと思ってたんだ。「あの時」までは。

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