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火神大我が21のときNBAデビューした翌年から、オフを利用し帰国した際の・・・年に一度の恒例行事となっている、黒子テツヤとのストバスを終えたあと。
彼のリクエストにより前日の夜から仕込んでいた、牛スネ肉のポトフと、ふわとろオムライス・ホワイトソースがけを囲みながら、互いの近況報告をしていたところ突然。
手に持っていたスプーンをそっと皿の上に置いたと思ったら、スッと背筋を伸ばし居住まいを質し意を決したように・・・ふぅ~と息を吐き出し。
次いでグッと眉間に力を込めた・・・そうかつて誠凛時代に幾度も目にした、真剣勝負に挑むときのようなそんな、懐かしい表情を浮かべた彼がいったい何を言い出すのかと思ったら。
「今日は、君に折り入ってお願いがあります」
「オリイッテ? お願い? ・・・・・・なに?」
「君、以前・・・同性愛に偏見ないって言ってましたよね? だから・・・」
「おう、言った。・・・で?」
ずっと叶わぬ恋をしているせいで、誰を抱いたことも抱かれたこともない黒子が(要は童貞・処女)――現在季刊誌で連載中の小説を無事完結させるにあたりどうしても必要だからと・・・。
締め切りが間近に迫る現在まで、三度書き直ししてはみたものの・・・こんな生温い表現では、塗ればでは説得力がないだの、読み手が主人公に感情移入できないだの、これではせっかくの傑作が駄作に成り下がってしまうだのと――ことごとくボツを食らい切羽詰まっているのだと。
だから考えに考え抜いた末、第三者に助力を願うことにしたのだけれど。けれどこんなことを頼めるのは君しかいないから。だからどうか助けてほしいのだと前置きした上で、とんでもないことを言い出すから――。
「だからその・・・ボクのこと抱いてくれません、か・・・・・・ってことをお願いしたくて」
「――――え? は? オレがお前を?! ・・・・・・つか冗談とかじゃ「ありません。本気です」」
「あー、だよな。お前冗談きらいっていっつも・・・」
「ええ。・・・で、どうです? お願い聞いてもらえそうです?」
「あー・・・なぁ~・・・どうですって・・・。聞かれても困るっつか」
「・・・・・・こまりますか」
「だってよー。オレお前のこと、そういう目でみたことなんか一度もねぇしな~・・・」
「ボク相手じゃその気になれない・・・勃たないってことです?」
「いや、相手がお前じゃなくても! ・・・実際今まで、ただの一度も男抱きたいなんて思ったことすらねーし。正直自信ねーな」
それはできるなら火神とて――。
・・・そうあれは忘れもしない、15の春。目の前に座るこの童顔の・・・いつまでたっても少年のまま、時を止めてしまったようにすら見える黒子と相棒になって以来ずっと。
再渡米後、21歳でNBA入りしそこから10年。今も変わらず所属チームのフランチャイズプレーヤーとして君臨し続ける間も、そしてこれからもずっと。
影として、あるいは現役を続ける原動力として・・・スーパースター・火神大我を誰よりも、そしてどこまでも飛翔させる唯一無二の男――黒子テツヤの頼みとあらば、よほどのことでもない限り聞き届けてやる腹積もりを・・・口いっぱい頬張っていたすね肉をゴクリと飲み下した瞬間・・・したつもりでいたし、実際今現在も叶えてやりたいと思っているし。どうするのが正解か――実際チャレンジしてみて答えを出すのが正解か、このまスッパリ断るのが正解かとか・・・。
「ですか。なら仕方ありません。無理言ってすみませんでした・・・もうこのことは忘れてください」
「ってことは・・・・・・あきらめんの?」
けれどいざそういう場面になってはみたものの、モノが使い物にならなかったらガッカリさせるだろうなとか。
いくら仕事のためとはいえ、困っているとはいえ・・・初めてはやっぱり好きな人とした方がいいんじゃないかとか・・・誠実な火神らしく答えを出しあぐねているうちに――。
「ギリギリまで粘るつもりではいますよ」
「ふーん・・・けどそんでもムリだったら?」
「そうですね――その時は二丁目にでも行って、誰か適当に引っかけて・・・って。そんな怖い顔しないで・・・冗談ですよ、冗談」
「ったりめーだ!!」
いつもならそうかんたんにあきらめたりしないはずの男が、らしくもなくさっさと話しを切り上げようとなんてするから。
――――だから、つい。
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