22 / 30

第22話

「しかし濡れたな、どうするか」  ぷるぷると頭を振ると毛先から水滴が飛び散って、龍郷が笑いながらそれを躱した。 「野良犬みたいだな」  野良犬より酷かった。あんたに出会うまでは。  しおんは無言で濡れた服を脱ぎ捨てた。肌に貼り付くのを強引に剥がして頭を抜き、膝丈のズボンも下着ごと脱ぎ捨てる。龍郷が息を呑む気配が、教会の静謐な空気を微かに震わせた。  少し驚いたようにしばたいて、けれどすぐに満足げに黒い瞳をすがめる。  気まぐれな雨はいつしかやんで、十字架の上にある明かり取りの窓から射し込む日射しが陰影を描いた。しおんの体は今や、靴下と靴下留めしかまとっていない。 「……美しいな。今のおまえは間違いなく黄金だ」  初めて会ったときから、射貫くようだった眸が肌の上を滑らかになぞっていくのを感じる。  それだけで昂ぶってしまいそうで、しおんはそのままつかつかと龍郷に歩み寄った。ネクタイをひっつかみ、椅子に座らせると、長い足をまたぐように立つ。 「罰当たりめ」  賢い龍郷は野暮なことは訊かない。そういうところが好ましくもあり、腹立たしくもあった。ただ野良犬のように催しているのだと思われているのなら、それでも良かった。 「……いまさらだろ」  呟けば、好む間合いで胸の突起に指が伸びてくる。しおんも龍郷のネクタイを奪うとシャツの釦をはずし、逞しい胸板に手のひらを踊らせた。 「……っ」  龍郷がしおんの跨がった足の位置を微妙に変えて刺激してくるのには気がついている。自ら擦り合わせながら、龍郷のズボンの前をくつろげる。顔を出したそれに自身をこすりつけた。お互いずぶ濡れになって、高原の空気にすっかり冷えたはずだったのに、そこは驚くほどの熱を発していた。  龍郷の肩の両脇から椅子の背もたれに手を回して体を支え、腰の動きだけでそこを擦り合わせる。自然としならせることになった腰のくびれに龍郷が手を回し、胸の突起を口に含まれた。 「ああ……っ!」  不自然で窮屈な体勢なのに、それ自体が心地よい。龍郷の手はしおんの背を撫で、腰をさすり、双丘までくだる。濡れた舌先でちろちろと乳首の先端をくすぐられるのと同時に龍郷の手のひらはしおんの丸い尻たぶを包み、ぐっと押し広げながら持ち上げた。そうして竿と竿をいいように擦り合わせてくる。 「あ……ばか……っ」  いいように扱われるのが腹立たしくて、身じろぐ。 「悪い。もどかしくてな」  悪びれもせずそんなことを囁かれれば、責めることはできない。けれど攻めたい気持ちはこみあげてきて、しおんは龍郷の熱を持つてのひらから逃れると、狭い足元にしゃがんだ。  そこはもうほとんど兆している。強引にことに持ち込んだのに、厭がられてはいないのだと思って安堵する。  つう、と尖らせた舌先でなぞれば、龍郷がひそやかに息を呑む。それが嬉しくてちろちろとくすぐりながら面をあげれば、視線に気がついた龍郷がぐっと眉根を寄せた不快げな表情で指を伸ばしてくる。  鼻を摘ままれると思って痛みに備えたのに、龍郷の指先は陶器を愛でるように頬を撫で、耳朶をきゅっと摘まむと去っていった。  なんだ、これ。  そんな経験はないのに、恋人たちの戯れみたいだと思った。  そんなわけはないのに。俺は店の宣伝用に投資されてるだけなのに。  くそ。  わけのわからない感情に押されて、しおんは龍郷を奥深くまで飲み込んだ。ぐっと喉を絞めると、悦びでぶるっと身震いし、さらに太く育つのがわかる。頬の柔らかい肉でこすり、上顎のざらりとしたところで撫でてやると、龍郷の手が再び伸びてきて、金に透けるしおんの髪に指をからませた。 「……上達が早い」  そういえば、初日は「下手くそ」とにべもなく断じられたのだった。  あのときと今、なにが違うのか考える。違うことといえば、あのときはただの手段。  今は――今は?    なんだか、触れてはいけないところに触れてしまった気がする。自分でも初めて触れるところに。  体のどこか奥深くで芽吹いたものがある。芽吹いたばかりなのに、それはまるで雨のあとの蔓草のように、光を求めてぐいぐいと伸びてくる。 「まさか練習したわけじゃあるまい」  龍郷がそう訊ねてくる。ずっと練習と店とあんたのうちとの行き来で、どこにそんな暇があるよと思ったが、理由はどうあれ、こいつは暇を縫って女と会っているのだと考えたら、勝手に意地悪な囁きがこぼれ落ちた。唾液と龍郷の先走りとで濡れた唇から。 「――さあな?」  見せつけてやるように濡れた唇を手の甲で拭うと、その腕をぐっと強く掴まれた。 「――っだよ」 「膝の上に座れ」  初めて会ったあの日のように、有無を言わさぬ調子だ。こうなったらもうこちらの言い分など聞きはしないのだと、今はもうわかっている。しぶしぶ靴下留め(ソックスガーター)を纏った足を広げて龍郷の腰をまたごうとすると「祭壇のほうを向いて」と再び命じられた。 「注文が多い」  思わずぼやいても「早くしろ」と言うばかりだ。くそ、と思いながら龍郷の顔に背を向け、祭壇のほうを向いて腰を下ろすと「もっと前屈みになって」とさらに命じられる。 「おい――わ」  意図するところが見えない不安で思わず声を荒げると、後ろから背中を押された。同時に腹に回った腕の力だけで体勢を整えられると、龍郷の眼前に腰を突き出す格好になる。  まさにそれが龍郷の望む姿だったらしく、満足げに尻の双丘を撫でられた。ぐっと広げられ、さすがに抗議の声を上げた。 「へ……んたい!」 「いまさらだろう」  さっきしおんが発した言葉をしゃあしゃあと返すだけで、龍郷は悪びれる様子もない。相変わらずしおんの肌を撫でながら、じっと視線を注いでいるのを感じる。  自分ではけして見ることのできないそこが、意思に関係なくひくついてしまう。意識すればするほどじんと痺れて敏感になる。龍郷の果てなく深い海のような黒い瞳がそこを凝視していると思うだけで、こんなふうに感じる己が恨めしかった。  身じろぎひとつで転がり落ちてしまいそうな無理な体勢に、精一杯背をそらして堪える。  ふっと息を吹きかけられた。 「……ッ」  落ちないように龍郷の足を両腕で抱けば、さらに腰を突き出すことになってしまう。龍郷はそれとわかっているのだろう。再び、みたびと息を吹きかけてくる。見られて敏感になっている薄い表皮の上を温かな吐息がくすぐる度、しおんは身震いした。  お、落ちる、この――  掴まるところを求めて指先を彷徨わせたとき、龍郷の吐息が熱くそこを覆った。 「あッ、ああ――ッ!!」  ぬらりとした生き物が秘所を這う。敏感になっていた肌にその刺激は強烈だった。  龍郷はたっぷりと唾液を含ませた舌でそこを覆うように舐めたかと思うと、ひくつく様を楽しむように双丘を左右に開く。  そしてまた満足げに舌を這わせる。  ときにはまだ頑なな扉を叩くように。  劣情で薄紅に染まる肌をまんべんなく濡らしたかと思えば、入り口をつつく。  くり返され、もうはっきりと自分でもわかるほどひくつくそこに、龍郷の舌先が潜り込んできた。 「ああ……ッ!!」  ひちゃ、ひちゃという濡れた音がやけに高く聞こえるのは、静かな教会であるせいだけではないだろう。龍郷がことさら淫猥に奏でているのだ。  しおんをたっぷり耳からも犯すように。 「あッ、あッ、あッ、あッ……ああー……」  龍郷の指は、今やしおんのやわらかな双丘を指がめり込むほど鷲掴んでいた。限界まで広げられたひどくあられもない格好を恥ずかしいと思うし屈辱だとも思うのに、それはどちらもより濃厚な快楽に繋がっている。  たちが悪い。まるで龍郷そのものみたいだ。 「んッ、んッ、んッ」  目を閉じて、そのたちの悪い快楽に完全に身を任せてしまうと、もう唇からは自分でも耳を疑うほどの甘い吐息しかこぼれてこなかった。とめどなくこぼれ落ちるそれは、自分自身を酔わせる。どろどろに犯されている秘所の裏で、触られてもいない昂ぶりが快楽の涙を流し始めているのにもしおんは気がついていた。 「こんなにひくついて……いやらしい躯だ」  龍郷の舌が一層深く中に入り込む。いいように蹂躙されて、しおんは叫んだ。 「あ、ああ、ああー……ッ!!」  吐精したわけでもないのに、体中を快感の波がさらっていった。吐精したわけではないからこそ、明確な終わりの見えないそれは、つま先まで波及していって、指先を震えさせる。  弛緩した腰を龍郷は掴んで、いとも簡単に表に返した。腰を上げさせられる。とろけたそこにあてがわれるものがあった。 「あ……」  思わず幼い子供がいやいやをするように首が触れた。舌と視線だけでもたらされた快感はまだ体中を包んでいて、これ以上重ねたらどうなるかわからなかった。龍郷は目を細めてふっと微笑むと、しおんの腰のしなりに手を添えた。抱き寄せて、すっかり尖った胸の果実を甘く食む。 「ん……」  逃げようとする手指に手指をからめ、背中を抱く。そっとした仕草なのに、有無を言わせない。濡れた口の中で育ったそれを巧みに転がされて陶然としたとき、腰のくびれを両側から掴まれ、楔の上に沈められた。 「あああああ……ッ!」  口に含んでいたときよりも熱い、灼熱のようなものがひと息に奥までねじ込まれて、意識が飛びそうになる。なのに濡れた肉は自ら絡みつくようで、頭と躯のばらばらさに引き裂かれそうになる。  それさえも快感だ。  龍郷の舌で熟れていた快楽の入り口は、腰を上下させられる度、ぬちゃ、ぬちゃ、と淫らな音を奏でた。 「ん、ん、ん」  とろけているはずなのに、龍郷の張り詰めた血管の隆起さえはっきりと感じる。開いた笠が奥を的確に抉る。そんなところに他人の体が触れることがあるなんて、自分ひとりでは一生知ることもなかっただろう。自分がこんなふうに他人に快楽を与えられることも。  いや、と思う。  孤児院の大人は自分にそれを要求した。だから龍郷の家で目覚めたとき、自分からそれを切り出したのではなかったか。あのときも、自分にはこれしかないと知っていた。やけっぱちで差し出したあのときと今と、行為自体に変わりはないはずなのに、こんなに感じるものが違うのはどうしてなんだろう―― 「ん、ん――?」  あと少しで再び大波に呑まれそうだったのに、まるで考え事をして気を散らしたのを察したように龍郷が激しい注挿をやめた。  訝しく思っている間に膝裏に手を差し入れられる。ぐっと広げられ、狭い龍郷の腹の上で結合部がはっきり見える体勢を取らされた。  ただでさえ太いものを飲み込んで張り詰めている皮膚が、限界まで広げられる。中が勝手に蠕動してしまう。白い腹に当たるほど反り返った自身の先端で、快楽の涙が光った。 「……凄い眺めだな」  龍郷は意地の悪い笑みと共に囁く。全裸に靴下と靴下留めだけ纏った姿はたしかにあられもないに違いなく、しおんはただ頬を紅潮させた。  しかも限界まで押し広げられたそこは、喜々として雄を咥え込んでいる。龍郷は片手でしおんの体を支えたまま、もう片方の指でしおんの先端の泉をつついた。瑞々しく柔らかな新芽を手折ったときのように、とぷっと溢れた先走りを指でのばしながら、つう……っと竿をくだり、門渡りをくすぐる。 「あ……ッ」  龍郷はそれから結合部を愛おしげに撫でると、再び腰を使い始めた。微妙な均衡が崩れることのないよう、靴下留めの下に手を入れてしっかりと足を掴み、浅い部分の刺激をくり返す。 「あっ、ああっ、ああっっ」  ず、ずっと出入りをくり返す注挿は、深い部分のそれよりはっきりと感じさせる。確かに龍郷のものが出たり入ったりしていると。そうやって自分をいやらしく味わっているということを。    昂ぶりは腰の動きに翻弄されるまま生き物のように首を振り、先走りは光る軌跡を描いた。  しおんは「くそ」と「へんたい」をくりかえす。それさえ淫らな結合音にかき消される。 「もっと可愛らしく啼いたらどうだ?」  そんなふうに煽りながら、龍郷の声は愉しんでいた。 「し……るか」  かろうじて絞り出せば、再び背中を抱き起こされた。  今度こそ容赦なく、最奥まで突き上げられる。 「ああ―……!」 「いい声だ。――」  不敵な囁きのあとが掠れ、一瞬龍郷が苦しげに、切なげに顔をしかめる。どろりとした熱い奔流が注ぎ込まれると、胸の中にまでかつて味わったことのない感情が広がっていくのを感じた。  そんなものを知るのは初めてだからよくわからない。でもたぶん、幸福感とかいうもの。  ああ、やっとわかった。なにが最初と違うのか。  気持ちだ。    俺は、こいつを。 「あああ……」  しおんの中はすべて味わい尽くすようにきつくうねり、自身もまた放った。

ともだちにシェアしよう!