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しばらく、口の中を舌でまさぐられる。
貪るような、横暴で乱暴な……そんな、キス。
ぼんやりと『あぁ、俺、今……キスしてるんだな』なんて、考える。
(――キ、ス……?)
なにをしているのか、もう一度考えた。
――そう、キスだ。
――誰と?
そう理解すると同時に。
「は、離せ……っ!」
俺は弾かれたように、現実へ戻った。
慌てて口元を袖でこすり、覚束ない思考で必死に考える。
(俺、今……っ! 高遠原に……なにを、された……っ?)
何とか距離を取ろうと、俺は高遠原を思い切り押し飛ばす。
しかし、ほんの少し離れる程度にしか効果はなかった。
それでも俺は、必死に脳をフル稼働させる。
「な、にを……企んで……っ!」
やったこと――コイツの手で射精した事実は、なかったことにはできない。
――俺はまんまと、コイツに弱みを握られてしまったのだ。
「別に、なにも?」
恐ろしいくらい優しく、高遠原が微笑む。
何の企みもなく、嫌いな男のペニスを扱いてきたってことか?
――そんなの、嘘だ。
「……っ! また俺の、変な噂を……立てるのかよ……っ!」
小さい頃と同じ、害を与えるつもりなんて微塵も無いように見える……端整な、笑顔。
「だから、なにもしないって――」
俺はもう、子供の頃から気付いている。
――高遠原の笑顔は、信用しちゃいけない笑顔だ。
「何だ……っ? 俺が、ゲイだとかホモだとかって言いふらすのか? そうしたらまた、俺から友達が離れるかもしれないもんな? お前にとったら万々歳だろ……っ? 俺から友達がいなくなるのは、嬉しくてたまらないんだもんなっ!」
精一杯威嚇したって、俺に逃げ場は……ない。
相手がコイツじゃなかったら、こんな被害妄想じみたことはしなかった。
――だけど、俺を手酷く裏切ったコイツだからこそ。
――俺は、この後が……怖い。
「何とか言えよ、高遠原っ!」
力を入れていないと、体が震えそうだ。
それでも俺は、しっかりと高遠原を睨みつける。
すると……コイツは予想外の表情を浮かべた。
「――そんなに、信用ないかよ……」
笑顔から、一変している。
(何で……っ? いったい、何なんだよ……っ!)
――どうして高遠原が、そんなに悲しそうな顔をしてるんだ?
普段の勝ち気な高遠原とは、全然違う表情。
思わず俺は、息を呑んでしまった。
その隙を待っていたかのように、高遠原が口を開く。
「……なァ、真冬」
寂し気な表情のまま……雨で冷えて冷たくなった俺の頬に、手を添える。
――添えられた高遠原の手も、冷たかった。
「今日、泊まっていけよ」
「……はぁっ? 何で俺がお前の家に泊まらないといけないんだよっ!」
考えただけで、寒気がする提案。
当然俺は、高遠原家から出て行こうとする。
だが。
「真冬」
――手を、強く握られた。
頬に添えられた手と同様……俺の手を握るコイツの手は、冷たいままだ。
1話・追い詰めるのが好き 了
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