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第1話
爽やかで溌剌とした、イマドキのキラキラ大学生。
生まれながらのコミュニケーション能力を遺憾なく発揮し、わからないことは躊躇なく質問する。
失敗は素直に謝罪。くよくよしない。悪口言わない。最低限の礼儀を持ち、距離の詰め方はマッハ。
明らかにウチの店の雰囲気には合ってないし、正直仲良くなれる気がしなかった。
「俺、南大3年の丹波 那緒 って言います。バーテンダーってかっこいいし、ここ時給めっちゃ良い感じなんで、ネットの募集見て即ギメしちゃいました」
那緒はこちらへにこっと満面の笑みを浮かべると、この世に打ち解けられない人種などいないと言わんばかりに喋り続ける。
「鷗 さんって、めっちゃクールすよね。超オトナ」
それから得意技のごとく自然の流れで相手を下の名前で呼び、クールとかオトナとかなんやかんやと、無意識にこちらのハードルを上げてくるのだ。
「そんな、こと、ないけど」
照れ隠しにぼさぼさの金髪を耳にかければ、やっぱり仕草が大人っぽいだの、ミステリアスだの、セクシーだのと平気で言って退け、こちらの意図に反して妙なキャラ付けする、まさにウルトラ危険因子。
苦手なタイプ。
「バイト募集欄に、アットホームな職場ってあってマジ良かったす。前の居酒屋は派閥的なんあって居心地悪かったんで。店長の珊瑚 さんもオシャレでかっこいいし、鷗さんも優しいから、俺めっちゃラッキーだなって思ってますよ」
極め付けは、ワイン用のグラスを丁寧に拭きながら、優しさの欠片を微塵も見せたことのない無愛想な俺へまるで『アナタは優しい人ですよね』、と洗脳するようなジャブを撃ち込む手慣れである。
これはますます苦手なタイプだった。
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