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第1話

やっとかよ〜おめでとうと祝福しあっている友人達。 「どったの?」 「陽平に彼女が出来たんだって。」 「男女問わずモテるのに、なかなか作らないから好きな人が居るんだと思ってたのになぁ。」 「ん?その好きな人と付き合うんじゃないの?」 3人で陽平を見るが、違うよ、とお弁当を食べつつ首を振っている。 俺もお弁当を開けて、食べ始める。 「陸と道は?」 「俺は作らないからねぇ。」 僕のお弁当の唐揚げをつまみ食いしながら陸が言う。 「ん?そうじゃなくてさ、陸と道はまだ付き合ってないの?」 「ブファっ!げっほ!げほ。」 お茶を吹き出し、咳き込んだ道の背中を陸がさすりながら、 「え、まって、何でそうなった?」 「この間、散歩の帰り道にちょっとねー、見ちゃったよねー。」 夜二人で手を繋いで帰っているのを、散歩中に見かけたのだ。 「ふふふっ。幸せなら良いんじゃない?って俺は思うよ?」 陸と道はビックリした顔して居たけど、少しづつ赤くなりながらも笑顔で付き合っていることを報告してくれた。 うんうん。幸せそうだなぁ。 俺の心まであったかくなる。 「後は進か〜。好きな人いないの?」 俺自身が誰かと付き合うのは想像できないなぁ。 「まぁ、そのうちに出来れば良いかな。」 とりあえず濁しておく。 仕方ないんだよねぇ。 俺の体には普通の男の人には無いものがある。 男としての男性器。 それと女性器。 妊娠ができるのか判らないが、先月から生理が始まった。 お腹痛くて家で寝て起きたら服も布団も真っ赤でビックリしたよね。 母さんは気持ち悪そうにしながら、ナプキンをくれた。 ナプキンを買いに行った帰りに陸と道を見たのだ。 父さんと母さんは俺の女性器の事を知っている。 息子として育ててくれて居るが、やはり気味悪がって居る。 弟は知らない。 爺ちゃんも婆ちゃんも知らない。 今まで普通の男として生きてこれたし、あそこを見られることも無かった。 もしかしたら理解してくれる女性とか居ないかなぁとか夢見てた。 けど生理が来てさ、俺に恋人とか無理だなって実感しちゃったのよね。 だから、一生清い体でいるのも良いかもしれない。 陽平は彼女と帰るらしい。 寂しいけど、仕方ないよね。 陸と道とは、逆方向なので一緒に帰らない。 一人で帰る事が初めてで、たまには良いかといつもと違う道を帰ってみる。 で、後悔中。 迷子になって裏路地に入ったら他校の学生に絡まれた。 俺は胸ぐらを掴まれ外壁に押し付けられてる。 殴られると思い、目を瞑り衝撃に耐えようと歯を食いしばる。 「お前ら、何してんだ。」 この場の空気を一瞬で凍らせた低い声の先を見ると、うちの制服を着崩した生徒が居る。 「斗真くん!?いや、あのこれは」 斗真くんとやらは、この方達と知り合い? 「誰だお前ら?何してんのか聞いてんだよ、あぁ?」 知らないようですね。 俺も知りません。 蜘蛛の子散らすってこう言う事なんだろうね。 少し斗真くんが近づいてきたらすんませんしたああ!!って走って逃げてった。 「あの、ありがとうございました。斗真くん、さん?」 あれ?この右顎のとこに有る傷。 「大丈夫か?こんな所彷徨いて何してんだ?」 あ、やっぱりそうだ。 「ちょっと気分転換しようと思ったら、迷子になった。ところで、松木くんだよね?」 黒縁メガネと長い前髪で顔を隠してる感じで、同じクラスだけど喋ったことはあまり無い。 驚いてるってことは合ってるんだ。 「よくわかったな。つか、迷子って何してんだ。幼馴染を彼女に取られて傷心中ってか?」 駅はこっちだって誘導しながら、一緒に歩いてくれる。 笑うとエクボができるのか。 「うーん、その顎の傷に見覚えがあったから。」 一瞬驚いてたけど、すぐに笑顔に戻った。 ゆっくり歩いて俺の歩幅に合わせてくれてる。 「傷心中なのかなぁ。みんな幸せいっぱいなのは良いんだ。幸せそうな姿を見ると俺も幸せだし。ただ、一人の時間をどう過ごしたら良いのかなぁって思って。少し変わったことしようと思ったら、この通り。」 フッて、笑わなくても良いのに。 「一人の時間ねぇ、何だろうな、読書とか?」 「あー眠くなる。」 「じゃあ、スマホゲームとか?」 「何かおすすめ有る?」 「俺はやらないから。」 「松木くんよ、何で進めたし。」 「あー斗真で良いよ。」 「じゃあ俺のことも進で。」 途中で知らない高校生達にめっちゃ挨拶されてる斗真くんは、何も返さずに相手の顔をチラッと見ただけで、俺との会話に戻ってた。 たわいない会話を楽しみながら駅に着いた。 斗真くんは俺の次の駅で降りるらしいので、一緒に電車に乗り込んだ。 連絡先も交換して、明日から昼ごはんを一緒に食べることになった。 俺の駅に着いてまたね、と別れた。 家に着きスマホを見ると斗真君から、これからよろしくのメッセージとわんこのスタンプが届いてた。 俺もよろしくと返事して、変顔のスタンプを送っといた。 朝の電車が混む事が憂鬱だと言う斗真君。 30分前の便だと混まないよ? 明日、俺と同じ電車に乗ると約束して、寝落ちした。 「おはよ、混んで無いでしょ?」 半分寝てそうな斗真くんを見つけて前に立った。 「おはよう。眠すぎて辛い。」 席を立ち、ドア付近に移動した。 俺の後ろにいたお婆さんにさり気なく譲ったらしい。 「立ったままでも寝そうだね。俺はしっかり寝たよ。」 7時間は寝てるからスッキリだし、早寝早起きだからね。 「昨日、進と話しして、目が冴えてきて、結局寝たの2時かな?」 大きなあくびに吸い込まれそうだ。 「俺にもたれて良いよ。少し目を閉じてるだけでも楽になるんじゃ無い?」 少しだけ、と言いながら俺に体重を預けて来る。 学校近くの駅に着くまで15分。 朝はきちんと制服を着て、長い前髪を下ろして、黒縁メガネの斗真くん。 ただのクラスメイトから、1日でこの距離は凄いよな。 陽介とは、この距離はなかった。 俺の方が一定の距離がないと怖かったんだ。 秘密がバレそうで。 あれ?斗真くんだと平気なのは何でだろう?

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