路傍の石のハート 俺、とにかく、逃げたい。 考えたくない。 「トイレ、いってきていい？」 「あ、ああ、飲んでるもんな」 「ん、みんなもいっぱい飲んでね 　俺だけはずるいよー 　あ、マスター、お店は？」 「今日は休みにした。 　だから、気にせず、飲め　 　俺が連れ帰ってやるから。」 「まて！、それはズルイ！ 　俺も連れて帰りたい！」 何やら遠くで言い争ってるけど知らなーい。 もう、ね。 生きてるほどめんどくセーことなかったわ！ 「はは、こんなブスに形だけでもありがとうねー！ 　感謝して、オシッコ行ってくる。 　まあ、飲んでてなー」 酔っ払いを装って、出入口に行くと、ごめんねー電話してくるーのジェスチャーで、靴を履いた。 持ち物はスマホと、財布だけ。 良かったアパートの荷物、出さないで。 タクシーを捕まえた。 急いでアパートに帰って荷物をまとめる。 スーツケースと、スーツだから、すぐ！ きっと、間に合う！ グチャグチャでも構わない。 積めた。 行く。 悲しい気持ちも、苦しい気持ちも、もう、いらないや。 持ってたスマホなんだか寂しいから、持って出たけど解約しよう。 外に出たら、ちょうど、マスターと悪ノリさんがタクシーから降りて来た。 あー、来ちゃったんか。 「カイ、そんなに許せないか？」 「許すも何も、あやまってねーじゃん。 　俺の立場じゃなくて、あんたらのプライドの問題だろ！」 「だから、好きなんだよ！」 なんかの超常現象番組じゃあるまいし、信じる信じないはアナタ次第、みたいなのヤメテ。 スーツケース、2個、スーツ3着。 俺の全て。 笑えた。 「ね、どんな罰ゲーム？」 2人が息を呑んだ。 は、は。 俺を落とさなきゃ行けないほど、ペナ大きいんかw 「ペナ大きいなら、抱いたことにしといて？ 　俺、違う街に行くから。 　大丈夫、さっきの常連さんにも抱かれたって言っとくから。 　2人のプライド守れるよね。」 スーツケースも、スーツもその場で2人に投げつけて走った。 いらねーや。 走ったよ、横目であの寂しくて寒くて怖かった公園通り過ぎて、そこそこ広い街道にぶつかる交差点で、轢かれた。 誰も、轢かれたときにはいなかったってさ。 足、肩、折れた。 入院するから、実家の母親が来て色々お小言を頂いた。 そのとき、実家に帰って来いって。 「母さん、お、れ、帰ってもいいんかね？」 「父さんも死んでいないけん、問題なか。」 母さんの方言に、ほっとした。 しばらく近くにおらせて、って伝えた。 泣きながら、うん、わかった、と眠った。 連日くるマスターと悪ノリさん。 そういや、スーツケースとか、アパートになかったって。 捨てられたかな。 「お母様、カイくんとお付き合い」 言いかけたところで、母は不機嫌になった。 いや、いつ付き合ったよ？ 「お付き合いやらいいますけんど、うちの子、カイなんて名前じゃないですけん、引き取ってください。 名前も知らん癖に、なに言うごたぁああか！」 伴(ともり) 解(さとる) だよ、本当に適当な奴らだ。 でも、大概しつこい。 うちの母さん、カッコいいわ。 母さんの子で、俺幸せだわ。 退院したら、近くの整形外科で良いみたいだし、実家の近くにしよ。