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第16話
水のハート
管理会社に一緒に行って、来月末で解約することとを言うと、本来なら1か月前だけど、大家さんに掛け合ってくれて、今月末でいいって言ってもらえた。
あと1週間とちょっと。
どうしよ、離れたくない。
田舎へ帰るのどうしよう。
マスターと部屋に帰ってきて、一番に言った。
悩んで、悩んで、それでも一緒にいたいって思った。
一刻でも離れていたくないって。
「かずしさん、あの、
おれ、田舎に帰りたくない
かずしさんと、離れるの嫌だよ」
「さとる、俺もだ。
こっちの店を処分して新しく、さとるの田舎の方でオープンさせようと思うんだ。
最初から、そうするつもりだったから。
それまで、帰るの待てるか?」
「うん!できる!
手伝う!」
片腕だけど、ぎゅって抱き着いた。
抱き返してくれる。
嬉しい、なんて幸せなんだ。
部屋が解約されて、もう、本当に、マスターと一緒になる準備が始まった。
あ、かずしさんね。
最近はキスは当たり前で、その先もちょっとする。
お互いのを握りあって、擦って気持ちよくなったり、昨日は、初めて舐めた。
あんまりうまくできなかったけど、口ン中がいっぱいになるのが、凄く嬉しくていっぱい舐めたよ。
だから、舐める練習を毎日するって宣言したくらい。
我ながら、恥ずかしいやつだよ。
肩の方が先に動かせるようになった。
まだ、時々痛むけど、可動域を拡げないといけないから、リハビリに通ってる。
送り迎えをかずしさんがしてくれるから、楽させてもらっちゃってるけど、実際、お店を処分するのに色々と手続きが必要で、忙しそうに走り回ってる。
俺も少しでもお手伝いしたいから、お店は処分するまでほとんど俺だけでやっていた。
と言っても、半月くらいで閉めるんだけどね。
いつものように、明かりを入れて開店した。
常連さんも、初めての人も、毎日、そこそこの入りで助かった。
マスターいなくても、難しいカクテルとかじゃなきゃ、出せたし。
気を使ってくれて、難しい物は頼まないでくれるから嬉しい。
「カイ君、かわいくなったね~
恋する力ってすごいね~」
どっかの偉い部長さんが言った。
「えぇ、初めての恋なんです。」
カラン♪
店の扉が鳴った。
いらっしゃいませ~
「あんたが、カイ?
一志返してよ!
泥棒猫がなんでこの店にまで入り込んでんだよ!」
え?
なにこれ、また仕込み?
「マスターですか?」
手が震える。
耳の奥がきーんってなる。
冷汗が出る。
「一志は俺の彼氏なんだよ
俺がいない間に潜り込んでんじゃねーよ!
このブス!」
あ、このパターン。
「お客様、マスターとのトラブルでしたら、ご本人とお願いします。
ここはお店ですから。」
笑って見せる。
伊達にこんなこと2回も経験してねーよ。
「なら、ビール頂戴、瓶で」
ふぅって何となくため息がでた。
「こちらになります」
「ありがとう」
そう言われた瞬間、頭からビールをかけられた。
「おい!やめないか!」
常連さんが止めに入った瞬間、そのビール瓶が頭に振り上げられて当たった。
目の前が真っ赤になった。
耳もなんか痛くて遠い。
俺、最近当たり年なんだな、きっと。
そのままカウンターの中で倒れた。
らしい。
覚えてない。
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