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第17話

壊れたハート 救急車の音が凄くする。 目が開かない。 何でだろう。 頭も、耳も、首も、肩も、足も、全部が痛い。 心が一番痛い。 何でだろう? 目が覚めたら、知らないところだった。 ここどこなんだろう? 身体が、思うように動かない。 全然力が入らないんだ。 一生懸命、動かそうとするけど、なんかしびれてるんだ。 「ぁ、」 こんな声なのかな? 「ともりさん!、ともりさーん!、聞こえますか?!」 また、目の前が暗くなった。 「さとる!  さとる!」 「さとるくん!  さとるくん!」 目が痛い。 「ぃたぃ、なん、で?」 「ごめん、さとる!」 なんだろ、誰かが大きい声で泣いてる。 「頭が、いたい」 「さとるくん!」 「だれ?、さとるってだれ?  おれ、だれ?」 聞いた話だと、なんか、お酒飲む店で絡まれて、殴られちゃったんだって。 その時、左側の側頭部をえぐっちゃったらしくて、結構な禿ができてる。 刈り込みに模様が入ってる感じ。 打ちどころがもう少し悪かったら、目の神経も危なかったみたい。 耳は、衝撃でちょっとだけ鼓膜が破れて聞こえ辛いけど、元に戻るんだって。 でもって、絶賛、迷子中。 俺だれ? みんな色んな名前で呼ぶから、多分正解はないんじゃないかな? なんか、帰る家もないんだって。 あ、違うか、なんか居候してたみたい。 天蓋孤独なのかな? 歳も27歳らしい。 でも、今まで生きてきた記憶がないから、わからない。 で、なぜか肩も、足も、折れてんの。 痛いはずだわ。 おまわりさんが、きて色々聞いたけど、何にも思い出せなかった。 住所不定無職、なのかな? 「さとる、退院したら、帰ろうな」 「えっと、だれですか?」 「っ!  本当に忘れてるのか?」 「一時的なものかもって先生は言ってました。  なんかすごく嫌なこととか、苦しいことを忘れてるのかもって」 「そうか、でも、俺はさとると一緒にいるよ。  どんなに、詰られてもいい  生きてくれてさえいれば、いい」 「あ、え、っと  泣かないでください。  泣かれると、俺の心が痛いから  ね、泣かないで。  俺ね、多分、誰かが泣いたり傷つくのは嫌なんだと思う」 「さとるはいつも我慢ばっかりして、やっと、やっと俺のとこに来てくれたのに  今度は、苦しすぎて、無かったことにしちゃったんだな」 「う~ん、どうだろ?  なんかね、あなたを見ると、ちょっと不安だけど嬉しくて、安心するんですよ。」 腫れてる顔や、汚いあざだらけを見られたくないな~って だって、かっこいいんだよ、この人! いっそこの事故で整形とかしてくれないかなって思う。 腫れの引いた顔がどんなかよくわからないけど。 「さとる、好きだよ。  ずっと、ずっと一生一緒にいるって、約束した」 「えっと、恋人同士だったんですか?」 「あぁ、一緒にさとるの田舎に帰って、籍入れて、お店をするって決めてたんだよ」 「色々忘れちゃって、ごめんなさい」 こんな格好いい人と一緒になれるっていうのに、なんで忘れちゃったんだろ、おれ。 お見舞いには、この人と、もう一人、凄く冗談ばっかり言ってる人も来る。 この人も、結構かっこいいんだ。 でも、思い出せない。 なんだろう、思い出そうとすると、頭が痛くて、吐きそうになる。 でも、思い出さなきゃって。 誰か、助けてよ

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