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後篇 [R18]
川を遡るにつれ岸の山並みは次第に峻厳になり、水の色は磨いた翡翠のようにとろりと輝きを増す。
俺は船尾楼から川面を見下ろして、頬をなでる夕風に目を細めた。
「楽しんでいるようだな」
不意に後ろから声がかかった。
普段より寛いだ衣装の偉遼は片手に提げた酒の皮袋を掲げ、頬を緩めた。
「船といったら、遠征の時以来だったか?」
「……溺れかけたこともあった」
偉遼は俺の隣に並び、わざとらしく顔を顰めて皮袋の酒を一口煽る。
お互い、つくづくろくな思い出がない。顔を見合わせて笑った。
こんなふうに穏やかな旅は初めてだった。
偉遼のつがいとなって以来張りつめていた気持ちが、久しぶりに緩む。
偉遼は俺の腕を取り、僅かに引き寄せる。思わず身を硬くして後ずさった俺の顔を、
「桓將」
静かな声で咎めるように覗き込み、ゆっくりと目を眇めた。
「いい加減に、観念しろ」
「~~~~くそっ……!」
瞼をぎゅっと閉じ、顎を上向けて、偉遼を受け入れた。
川風を受けて冷えた唇に、笑み交じりの吐息が触れて唇が合わさる。
心の臓がやたらに早鐘を打って、偉遼の耳にも届いているんじゃないだろうかと、変に気を揉んで身じろぎする俺を抱きすくめ、腕の中に戒めて、口づけが深くなる。
上顎の柔らかい粘膜を、溶けそうに熱い舌先がなぞっていく。
「ふ、ん……ぅ…っ」
腰に溜まる熱とともに下腹に宿った華がジンと痛んで、後ろの窄まりにむず痒いような火照りが生まれる。
「は、なせ……!」
腹の中に作られたばかりの器官の疼きに、俺は焦り、偉遼の胸を押し、顔を背けて突き放した。
「案ずるな」
ぐいと手を引かれ、よろめくまま船端のほうを向かされる。
俺を手すりに押し付けて後ろから覆いかぶさり、偉遼は耳元で低く囁く。
「この俺が、言い含めた。誰も来ない」
「もとから、その気かよ…!」
「都を出る前に、そう言わなかったか?」
ああ、言ったとも。俺は歯噛みして手すりを引っ掻く。
背後から伸びた手が上着の裾に差し込まれ、筒袴の前紐がするりと解かれる。
下帯越しに掌に包まれた局所は、既にはっきりときざしていた。
「く、……そ」
いたたまれなさに悪態をつく。背中に触れた胸から、偉遼の笑いが伝わってきた。
白い晒の下帯を透かして張りつめた茎を、しなやかな指がつるりとなぞり、溢れた滴が前布を濡らす。
「莫迦が、も、早く…脱がせろ……っ」
「……ああ」
服を纏ったままの偉遼が、ぐっと腰を突き出して、俺の尻の間に押し当てる。
幾重も重なった衣ごしにも、偉遼のものが熱く、昂ぶっているのが伝わる。
「ぁ、く……ぅ」
互いの身体が、つがいを恋しがっているのが分かる。
内股の柔い皮膚を焦らしながらまさぐる偉遼の手を掴み、ぎりりと爪を立てた。
「ぁ、伯……っ!」
「……わが后の望みとあれば」
耳元に熱の籠った声が注がれ、湿った下帯が袴とともに足元に落ちる。
窄まりに指が押し当てられるのを感じて、ざらついた手すりに縋った。
「もう、濡らしているのか」
窘めるような偉遼の声の端から、抑えきれない熱が覗いている。
ぐしゅ、と、長く節ばった指に掻き回されて、俺のぬかるみがはしたなく音を立てる。
「そ、いうのは、いい…っ!」
三本纏めた指が抜き差しされるたび、窄まっては割り開かれる孔が、ぐぽ、じゅぼ、と音高く粘つく。
指の間から溢れた粘液と、昂ったままの陰茎から漏れる先走りが、会陰を伝ってぽたぽたと甲板に染みを作った。
「衣を、抑えていろ」
偉遼が俺の上着の裾を纏めて持ち上げ、手すりに縋った手に握らせる。
剥き出しになった秘所が、ひやりと風に撫でられ、背中に怖気が走った。
急いた仕草で指が引き抜かれ、緩んだ秘孔が咥えるものをねだるようにひくつく。
「……桓將」
偉遼の声に、浅く頷く。
硬くぬめった先端が押し当てられ、身構える間すら与えられずに、ずるりと滑り込んだ。
「ふ、ぐっ……ん、ぅう……――ッ」
身体の芯を貫いていく熱に、下から押し出されるように低く呻く。
性器に成り代わった後孔は、引き攣りもせず熱い雄を飲み込んでいく。
柔らかい襞を引き伸ばされる感覚は痛みも苦しさが勝って、胎全体が重く満たされていく。
立ったままの体位のため全身が強張って、俺と偉遼双方の負担を大きくしている。
「……っ、さすがに、きついな」
偉遼はすべてを収めきる前に挿入をとどめると、労りを込めて、掌で俺の背をさすった。
「は……、伯、遠……」
もう少しだけ、休ませてほしいと言いたいのに、言葉にならない。
視界の端に偉遼の黒髪が滑り落ち、頬に唇が押し当てられた。
「少し、待つ」
声は掠れ、吐く息は熱い。本能を突き動かす熱を抑え込んで、偉遼は囁く。
ほっとして頷き、胸を喘がせて大きく息をついた。
崩れそうな膝を叱咤して必死に力を籠めるものの、中にいる偉遼をいっそう締め上げ、呻かせてしまう。
「く、~~ッ、こら、士範」
「わ、るい」
「手すりに、掴まっていろ」
偉遼はそう言うなり俺の両膝に手を挿し込んで下から支えあげると、その熱を根元近くまで深く挿し込んだまま、小刻みに腰を揺すって俺の中を蹂躙しはじめる。
「うぁ、ま、っ……ぃ、やだっ、深……ッ、ぃ…ぅぐ、あァッ…!!」
背丈の差が突き入れる動きを助け、俺は偉遼になかば抱え上げられるような格好で突き上げられ、甘く痺れるような、逃れようのない快楽に晒される。
首を振って身をよじったはずみに、身体の中で、俺を貫いた偉遼の熱がずるりと角度を変えた。
張りつめきった雁首が、胎の最奥の、今まで一度も触れられなかった深みを割って入り込む。
「ひぐ、ゥ~~……ッ!! そこ、ぃだ、あァ――、ぁ……ッ!!」
「う、っぃ、く、ッ……!! すまない、士範……!!」
ずちゅ、と音を立てて、偉遼の陰茎が一息に抜き取られる。
過敏になった内壁を張り出した雁首でごりごりと削られ、中のしこりと陰嚢がびくりと痙攣する。
細い精管を留めようもなく熱いものが駆け上がって、俺は弾けるように吐精していた。
「ひ…ぃ、くぅッ…!! ア、は、ぁあ――……!!」
「く、っ……、は……ぁ…」
偉遼は俺の尻の間に熱い裏筋を擦り付けるように幾度か腰を突き上げて、息をつめて身を強張らせる。
どぷりと温い飛沫が、俺の尻と背に幾度もふりかかって、肌を汚していった。
偉遼は衣が汚れるのも構わず、身を屈めて俺に体重を預けると、俺の背中に額をすり寄せ、唇を押し付ける。
俺は汗に濡れた衣の襟をかき合わせ、荒く息をついた。
最後まで触られもしなかった俺のものから、ぽたりと垂れた白濁が、船端から零れて碧色の川面に沈んでいく。
「とんだ、保養もあったもんだ……」
ほとほと疲労困憊した俺の嘆息に、偉遼は目を丸くして俺の顔を覗き込む。
そうして、赤面して唇を尖らせた俺を見るなり、くつくつと喉を鳴らして機嫌よく笑い始めた。
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