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第20話 川上 幸樹 ⑤

「副社長、お時間です」 ドアの向こうから、男性の声がした。 「チッ。梶野か…」 いつも冷静で温和な幸樹が舌打ちをする。 「会議の時間、延ばせないのか?」 智樹を膝の上に乗せたまま、幸樹はドアの外にいる幸樹の秘書、梶野に告げたが、 「もう会長も社長もお見えです」 梶野にきっぱりと『これ以上、時間を伸ばすのは無理だ』と言う意味合いの言葉を投げかけられた。 梶野さん、いいタイミング。 幸樹にとって、梶野の登場は最悪のタイミングだったが、智樹にとってはこの上なくいいタイミングだ。 「幸樹兄さん、会議に行ってきて」 智樹はまだ幸樹の膝の上に座り、胸がはだけた状態で言う。 「…」 無言で渋る幸樹に智樹が幸樹の胸に顔をうずめる。 「僕、幸樹兄さんの仕事の邪魔したくないんだ…」 「邪魔だなんて…」 幸樹が智樹の背中に手をまわした。 「幸樹兄さんの邪魔ばっかりしてしまうなら、もう僕、仕事場(ここ)には来れなくなってしまう…」 悲しそうに顔を上げた智樹が幸樹を見つめる。 義姉(ぎし)である早苗さんに見つからない会社(ここ)で日中、俺と会う事が幸樹兄さんにとって幸せな時間だから、俺が会社(ここ)に来ないと言えば、幸樹兄さんは絶対に折れるはず。 「智樹がそういうなら…」 幸樹が寂しそうに智樹の頭を撫でた。 「僕も寂しいけど、もう帰るね」 智樹はシャツのボタンを締め直し、幸樹に背を向けたが、もう一度幸樹の方を振り返る。 そうだ。 確認しないといけないことがある。

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