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第34話 声が聞きたかった…
夜中、家族中が寝静まった午前3時ごろ。
智樹は電気の消えた部屋の中、スマホを片手に今日、雅樹に付けられたキスマークに触れていた。
キスマーク自体は雅樹に何度もつけられていたし、智樹自身、マークを見るたび雅樹との甘く、激しいセッ○スを思い出すので、マークを見るのが好きだった。
だが今回は違う。
優しくもない突然つけられた、ただの赤いマーク。
見たくない、こんなマーク。
どうせヒートじゃない俺なんかいらないんだろ?
たまたま少しだけフェロモンの香りがしただけだろ?
雅樹は鼻がいいから、わかっただけだろ?
アルファ一家なのにオメガな俺は…
特殊なフェロモンを放つ俺なんて、この家にもいらないんだろ?
どうせすぐにセッ○スでなんでも解決しようとする俺なんて、いらないんだろ?
こんな家にいたくない…
智樹の手はスマホに伸び、ある番号で止まる。
何度目かの呼び出し音の後、
『もしもし智樹君、何かあった?すぐに行くから場所教えて』
電話の向こうで急ぎ、車の鍵を持つ気配がする。
「大丈夫。ただ早見さんの声が聞きたくて…」
いつもの智樹なら絶対にしないこと。
だが1人、無音の部屋にいるのは辛かった。
『どうした?今どこ?』
安心したような早見の声は、いつもより優しく感じる。
「自分の部屋…」
早見の声を聞くと、無性に会いたくなった。
「早見さん…、俺…」
智樹が言いかけた時、
『迎えに行くよ。ドライブしよう』
早見が言うと、智樹の目に涙が溜まり「うん」と小さく返事だけした。
『家の近くに着いたら連絡する。それから門まで歩いて迎えに行くよ。でも、もし行きたくなくなったり、行けなくなっても気にしないで。電話で話すぐらい、どこでもできるから…』
早見の声はとても優しかった。
「早見さんも気をつけて」
と智樹が言うと『ありがとう』と早見がいい、通話を切った。
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