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第64話 環 ①

どのぐらい眠っていただろうか… 何かの視線を感じ、智樹がうっすら目を開くと、 雅樹? ベッドに肘をつき、眠っていた智樹を見つめている誰かがいた。 「雅樹?」 智樹のまだぼーっとする視界に映る人影は、何も発しない。 「雅樹…?」 もう一度、智樹がその人影に話しかけると、 「おはよう、彼シャツ着たモトキくん」 「‼︎」 その声は智樹が思っていた雅樹の声ではなく、もっと明るい感じの… 「たま…き?」 まだしっかりと開いていない目を智樹は擦り、よくよく人影をみると、そこには雅樹ではなく、制服をきたままの環がいた。 「お前、よく寝てたな〜。だいたい3時間、4時間ぐらい?」 そんなに⁉︎ 智樹が慌てて外を見ると、もう夕焼けだ。 「ご、ごめん‼︎そんなに寝るつもりなかったし、環のベッド占領するつもりもなかった…」 申し訳なさで智樹はいっぱいだ。 「別にいいよ。それにしても『彼シャツ』、よく似合うな。モトキくん」 環は笑いながら智樹が来ている自分の服を、引っ張った。 「か、彼シャツっていうな!環、俺の彼氏じゃないだろ⁉︎」 服を引っ張られた智樹は、環の手から服を引っ張り返す。 「彼シャツの定義って、大きめでダブダブの服着てる…って事だろ?だったら、今モトキくんが着てるの『彼シャツ』じゃん」 智樹の反応が面白いというように、環は笑う。 「なんだよその定義。違うだろ?彼氏のシャツだから『彼シャツ』で、決して大きめの服を着てるからって、それが『彼シャツ』になんてならない。しかも…」 「しかも?」 「俺、モトキじゃない。智樹!」 名前まで間違われた智樹は、それを訂正する。 「そうだったっけ?それは、ごめんごめん」 笑いながら環は謝っていて、全然気持ちが入っていない。 謝る気あるのかよ…? 言い返したいけど、美奈さんにはものすごくお世話になったから、その息子には言い返せないし… 智樹は少し納得いっていないようだったが、あえてそこは言わないでいた。 「ところで智樹。寝る前にスマホ充電するの忘れてただろ?」 「あ‼︎忘れてた‼︎」 智樹は環から手渡されたスマホを見ると、 あれ?充電されてる。 80%ぐらいまで充電されていた。 「智樹が寝てる間にしといた。礼はいらないから」 冗談ぽく環は言った。 「見ようと思って見たんじゃないけどさ、すごい量の着信履歴だったぞ」 『ほら』と、環が指さすスマホの画面を見ると、雅樹から、物凄い量の着信とメール。 そして雅樹ほどではないが、早見からの着信とメールもある。

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