63 / 87
第64話 環 ①
どのぐらい眠っていただろうか…
何かの視線を感じ、智樹がうっすら目を開くと、
雅樹?
ベッドに肘をつき、眠っていた智樹を見つめている誰かがいた。
「雅樹?」
智樹のまだぼーっとする視界に映る人影は、何も発しない。
「雅樹…?」
もう一度、智樹がその人影に話しかけると、
「おはよう、彼シャツ着たモトキくん」
「‼︎」
その声は智樹が思っていた雅樹の声ではなく、もっと明るい感じの…
「たま…き?」
まだしっかりと開いていない目を智樹は擦り、よくよく人影をみると、そこには雅樹ではなく、制服をきたままの環がいた。
「お前、よく寝てたな〜。だいたい3時間、4時間ぐらい?」
そんなに⁉︎
智樹が慌てて外を見ると、もう夕焼けだ。
「ご、ごめん‼︎そんなに寝るつもりなかったし、環のベッド占領するつもりもなかった…」
申し訳なさで智樹はいっぱいだ。
「別にいいよ。それにしても『彼シャツ』、よく似合うな。モトキくん」
環は笑いながら智樹が来ている自分の服を、引っ張った。
「か、彼シャツっていうな!環、俺の彼氏じゃないだろ⁉︎」
服を引っ張られた智樹は、環の手から服を引っ張り返す。
「彼シャツの定義って、大きめでダブダブの服着てる…って事だろ?だったら、今モトキくんが着てるの『彼シャツ』じゃん」
智樹の反応が面白いというように、環は笑う。
「なんだよその定義。違うだろ?彼氏のシャツだから『彼シャツ』で、決して大きめの服を着てるからって、それが『彼シャツ』になんてならない。しかも…」
「しかも?」
「俺、モトキじゃない。智樹!」
名前まで間違われた智樹は、それを訂正する。
「そうだったっけ?それは、ごめんごめん」
笑いながら環は謝っていて、全然気持ちが入っていない。
謝る気あるのかよ…?
言い返したいけど、美奈さんにはものすごくお世話になったから、その息子には言い返せないし…
智樹は少し納得いっていないようだったが、あえてそこは言わないでいた。
「ところで智樹。寝る前にスマホ充電するの忘れてただろ?」
「あ‼︎忘れてた‼︎」
智樹は環から手渡されたスマホを見ると、
あれ?充電されてる。
80%ぐらいまで充電されていた。
「智樹が寝てる間にしといた。礼はいらないから」
冗談ぽく環は言った。
「見ようと思って見たんじゃないけどさ、すごい量の着信履歴だったぞ」
『ほら』と、環が指さすスマホの画面を見ると、雅樹から、物凄い量の着信とメール。
そして雅樹ほどではないが、早見からの着信とメールもある。
ともだちにシェアしよう!