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第76話 帰り道 ⑤
あれから散々、智樹の黒歴史が曝露され、その後は3人仲良くとりとめのない話を、智樹の家の前に着くまでした。
智樹の家の前まで来ると智樹は車から降り、運転席側まで回り込むと、トントントンと運転席側の窓を叩いた。
「智樹君、忘れもの?」
窓を開けた早見は後部座席に忘れ物がないか、探す。
「いえ、違うんです…。早見さん、今日は迷惑をおかけした上に、家まで送ってくださり、ありがとうございました。これからはこんな事がないように……」
「いいよ、これからもこんな事があっても」
早見は笑顔で智樹の言葉を遮り、
「俺は好きだよ。智樹くんに振り回されるの」
と笑いながら付け加えると、早見は運転席の窓から手を伸ばし智樹の頭を撫でた。
「智樹君には、ご家族の意外にも頼れる人がいるじゃないか」
「…」
「俺と環君」
早見が後部座席に座る環の方を見ると、環は嬉しそうに早見を見て、そして智樹に手を振る。
「頼って。それでもし振り回されたとしても、智樹君が一人で悩みを抱え込まないでいてくれた方が、俺は嬉しいけど…、環君は?」
環に早見が話を振ると、
「本当は誰かに振り回されるの嫌いだけど、智樹は別!!」
ニカっと環が笑う。
「智樹、俺たち親友だろ?」
環が後部座席から体を運転席の側まで寄せ、驚く智樹の側までやってきた。
「明日迎えにくる。時間は何時がいい?」
「…8時、すぎ…」
「じゃあ8時すぎ。着いたら連絡する。一緒に登校するの、楽しみ」
「え…?」
智樹との登校が楽しみといった風に笑う環とは対象的に早見は驚き、目を見開き、そして悲しそうに眉にシワをよせた。
「智樹くん…、明日は環君と登校するのか?」
「……はい……」
いつかは言わないといけない事。
でも、車の中でも言い出せなかった。
こうやって早見さんが悲しそうにするのが、わかっていたから。
ここまでしてもらっていたのに…
でも、今言うしかない!
「しばらくは環と登下校しようってなって…」
智樹が早見の顔色を伺う。
「……。そっか……」
早見はここまで言うと、
「気をつけてね。環君、智樹君をよろしく…な」
不安そうに早見を見つめる智樹を見て、それから後部座席を振り返り、環を笑顔で見た。
その時、智樹には見えた。
早見が後部座席を振り返る、その一瞬、早見の顔が…
あの早見が顔を曇らせ、本当に悲げだった顔を。
「任せてください!智樹は俺が護ります」
環は早見の表情に気づかず、胸を張る。
「環君なら大丈夫だな。それじゃあ、これから環君を送るよ。智樹君、大丈夫?」
「ハイ。門の前まで送ってくださり、ありがとうございました」
もう一度智樹が早見に頭をさげると、
「また明日」
環が智樹に手を振り、そして、車は走って行った。
あんなによくしてくれてるのに…
ごめんなさい。早見さん…
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