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第78話 あの日 ①
智樹が急いで帰ったあの日…。
智樹と別クラスの雅樹が、智樹の教室を覗いたが姿がなかった。
「智樹知らねー?」
雅樹は近くにいた智樹のクラスメイトに声を掛けると、
「智樹ならさっき急いで帰ったぞ。今日は一緒じゃないんだ」
意外そうにされた。
「そっか…、ありがとう」
どうやら二人は入れ違ったようだ。
ただの行き違い。ごく普通にあることだ。
だが雅樹は智樹のクラスメイトの返答を聞いて、少し違和感を感じた。
あれ?
智樹から何も聞いてない。
朝は智樹と雅樹、2人一緒に早見の車で登校し、帰りは帰宅部の智樹は早見の車で、陸上部に所属している雅樹は一人で帰っている。
だから、智樹と別々に変えることは不思議ではないが、帰る時、必ず智樹は雅樹に声をかけてから帰っているが、今日はそれがなかったのだ。
「純也 、智樹なんか言ってなかったか?」
雅樹は智樹と同じクラスで、雅樹とは同じ陸上部の宇佐美 純也に声を掛けた。
「いや、何も。ただ……」
何か思い出したように純也がチラリと雅樹の方を見て、手まねきをする。
そして、雅樹が純也に近づくと、
「智樹からちょっと甘い香りがした」
小声で純也が囁いた。
やっぱり!
少しフェロモンの香りがすると思ってたんだ。
でも、まだ本格的なヒートになるには早すぎる。
俺の勘違いかと思ってたけど、純也《こいつ》がわかったってことは、俺の勘違いじゃない。
純也はアルファだ。
しかもかなり鼻がいい。
純也が分かり出したということは、『もうすぐヒートがくる』そういうことだ。
「智樹のヒート、まだだいぶん先じゃなかったっけ?」
純也は部活に行く支度をしながら、智樹がいない机の方を見た。
「ああ、まだ先…ってなんでお前が知ってんだよ」
智樹のヒートを把握されているようで、雅樹はムッとする。
「だって俺、智樹のお目付役兼護衛だろ?」
得意げに純也が胸を張ると、
「頼んでねーし、役目全然果たしてねーじゃん」
雅樹が軽く蹴るフリをした。
多分、早見さんが送ってくれてると思う。
だけど、智樹のフェロモンは特殊だから心配だ。
「で、雅樹。お前、部活行くだろ?早く支度しないと、コーチにまた叱られんぞ」
ほぼほぼ部活に行く用意を済ませた純也が、雅樹に声をかけると、
「……。智樹が心配だから、俺、今日休むわ。適当にコーチに言っといて」
それだけ言い残し、「なんて言えってんだよー!」と、叫ぶ純也の前から消えていった。
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