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第88話 雅紀の気持ち ①

あんなに離れたがらなかった雅樹が、いざ寝るとなると、 『今日は別々に寝る』 と言い出し、智樹のベッドに置いていた自分の枕を、自室に持って帰ろうとする。 「え?なんで?」 雅樹の枕を智樹が引っ張る。 「なんでって……」 今日何度目になるだろうか?雅樹は口籠る。 「俺のこと嫌い?」 あんなに優しく『好きだ』と呟いてくれていた雅樹が離れてしまうのが、智樹は嫌だった。 あんな自分勝手に雅樹の事、怒っていたのは俺だけど… それでも雅樹の顔を見ると、雅樹が隣にいないのは不安になる。 いつかは分からない… でも確実に雅樹が俺のそばからいなくなってしまう、その日が来たのかと思ってしまう。 いつも、雅樹の隣には彼女がいるけど、寝る時は俺が雅樹を独り占めできる唯一の時間。 あの厚い胸板に頭を乗せ、雅樹が眠る顔を下から見上げられるのは… 夜、一緒に寝られるのは俺だけ。 「智樹の事、嫌いになるわけないだろ⁉︎」 雅樹は智樹を抱きしめる。 「一緒に寝たら、、……んだろ…」 ? なんて? 肝心なところは智樹には聞こえない。 「え?なに?聞こえなかったんだけど」 智樹は下から雅樹の顔を見上げる。 「‼︎そんな可愛い顔すんなよ」 雅樹は自分の口に手を当て、顔を赤くしながら智樹と目を合わせないよう横を向く。 !?!? ま、雅樹がそんな事言うなんて⁉︎⁉︎ 驚きすぎて、智樹が目をパチクリさせた。 これは絶対、理由を聞きたい‼︎ 言わせたい‼︎ 「言ってよ、雅樹…」 智樹はわざと雅樹に体を擦り寄せる。 「!!」 「雅樹は…俺に隠し事…あるんだ…」 瞳を潤ませ、下を向いた智樹は泣きの一手を使う。 その智樹の姿を見て、雅樹がオロオロしているのが、雅樹の姿を見ていない智樹に分かった。 「言いたく無いことを聞いて、ワガママ言ってごめん…。俺、寂しいけど…一人で寝るよ…」 智樹が雅樹の腕の中からすり抜けようとすると、 「わっ!!」 智樹の体が宙に浮き、智樹は雅樹に縦抱きに抱き上げられていた。 「『智樹と一緒に寝たら、抱きたくなんだろ』って言ったんだ!!」 雅樹は言ってしまった後、しまった!と智樹から顔をそらす。 『抱きたくなる』ってどういう事!? 雅樹が? 俺を? 抱きたい? 雅樹も俺もヒートじゃないのに!? 今まで、ヒートの時以外、俺に触れようとしなかったのに!? 「え…?それって…」 雅樹の言った意味がわからず、また智樹が目をパチクリさせる。 「今、一緒に寝たら、俺、智樹のことが気になって朝まで寝られない…」 消えそうな雅樹の声。 「…」 「俺、寝不足なの智樹も知ってるだろ?だから……」 雅樹が言いかけた時、 「じゃあ……、抱けば…いいじゃん…。俺のこと…」 抱き上げられたまま、智樹は驚く雅樹を見つめる。 「抱けばいいじゃん。俺のこと…。雅樹は抱きたいんだろ?俺のこと…。じゃあ…」 「でも智樹。まだヒートになるには早いだろ…」 悲しそうな表情を見せた雅樹が、抱き上げていた智樹を下に降ろした。 「智樹がヒートになったら……、そん時、俺を《《使え》》よ…」 雅樹が智樹に背を向けると、部屋から出て行こうとする。 『使えよ』ってどういう意味? 『使う』って、俺が雅樹の事を使うって事? 何に使う? 何に…… !!!! もしかして!! いや、そんな…… でも、それしか考えられない。 『俺を使え』の『|使う《・・》って、 『ヒートの薬代わりにしろよ』ってことなのか!?!? そんな… なんで!? どうして!? どうして、そんな事…… そんな事……。 そんな事、俺は今まで一度だって思った事ない!! もしかして、雅樹は俺がそう思ってると思ってた!?!? 「待って!雅樹!!」 去ろうとしていた雅樹の背中に、智樹がしがみつく。 「『俺を使えよ』ってどういう意味?」 「…」 「『使う』って俺が雅樹のこと使うってこと?」 「…」 「ヒートの薬代わりに使えってこと…?」 「…」 「言ってくれないとわかんない!!」 「智樹は知らなくて…いい…」 哀しげな声の雅樹は、前を向いたままだ。 そんな… 知らなくていいだなんて… 雅樹は俺に本当のことを、言ってくれないのか? 雅樹がどう思ってるか? 俺がどう思ってるのか、知りたくないのか? 雅樹の言葉にショックを受け、しがみついていた智樹の腕の力が緩まると、 「おやすみ智樹…」 一度も智樹の方を振り向かず、雅樹が出ていこうとする。 行かないで!!雅樹!! 雅樹の腕を智樹が掴む。 「行かないで雅樹…。抱いて欲しい…、雅樹に抱かれたい…。ヒートじゃなくても雅樹、抱いて…」 今まで言いたくても言えなかったこと。 言ってしまって拒否されれば立ち直れない…。 そう思い、今まで胸の奥底にしまい込んでいた真実。 これまでも、これからも決して雅樹に伝えることができないと思っていた気持ち……。 ヒートの時以外、雅樹は俺のこと必要としていないと思ってた。 でも、本当は違ってたのか? 本当は雅樹も俺を抱きたいと思ってくれてたのか? 触れたいと思ってくれてたのか? 「俺はいつでと雅樹に抱かれたい…。雅樹、言ったじゃないか!?『俺に触れられただけでトロトロになれよ』って…。俺はいつも…」 そこまで言いかけた時、智樹はベッドに押し倒され、雅樹は智樹の上に覆い被さる。 「智樹そんなこと言っても、今、下に母さんがいる」 「知ってる」 「もしかしたら、気づくかもしれない」 「わかってる」 「もし、ヒートの時以外にしたら、次のヒートからセッ○スしても、智樹のヒートが治らなくなるかもしれない…」 「そんなのどうだっていい…」 「どうだっていいって言ったって、智樹は薬効かないじゃないか…」 「俺はそうなったとしても、今、ここで雅樹に抱かれたい…」 「………」 雅樹は奥歯を噛み締め、何かを堪えているようだ。 そして暫くの沈黙の後、 「俺は智樹を傷つけたくない…」 ぽつりと雅樹が呟く。 「雅樹に触れてもらえない方が、辛い…」 「だっておかしいだろ?俺たち…、兄弟じゃないか…」 辛く、悲しそうな雅樹の瞳が、智樹の瞳に飛び込んでくる。 『兄弟』 いつも、その言葉がつきまとう。 ヒートの時だけセッ○スするのは、お互い抑制のために必要だからするのか? 俺と雅樹が兄弟だから、雅樹を好きになったらダメなのか? もっと触ってもらいたいって思ったら、ダメなのか? 血の繋がりがってなんだよ。 好きな人を好きになっちゃダメなのかよ… 「だったら何だっていうんだよ…」 「…」 「そんなの関係ない。だって俺は、雅樹のこと、す……」 智樹がそこまで言いかけた時、急に雅樹が智樹の唇を濃厚なキスをした。

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