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第1話 『手紙』

俺にはその人のことを考えると心が震え、泣きたくなるほど好きな人がいて、 その人は今、俺の隣で優しい寝息をたてている。 さっきまで、あんなに俺を愛してくれていた人だけど、 貴方の愛してる人は俺じゃない。 俺は貴方が記憶をなくした事をいいことに、 貴方があいつを… 貴方が薫を誰より愛していた事を、なかった事にして、 貴方の最愛の人は俺だと、 信じ込ませたんだ。 はじめは、それでも貴方が欲しかった。 でも、今は? 貴方が俺を愛しい人を見るような瞳で見てくれる度、 俺は思い出すんだ。 貴方が薫に向けていた、瞳と優しい視線を… 貴方の愛しい人は、俺じゃない。 俺じゃないけど、夢見たかったんだ。 一瞬だけでも… だけど、それも今日で終わりにします。 『神谷(かみたに)先輩    今まで俺は、先輩に嘘をついていました。  先輩が愛した人は俺ではありません。  先輩の隣で息を引き取った、長谷部(はせべ) (かおる)です。  先輩が事故と薫を亡くしたショックで、記憶をなくした事を俺は利用して、先輩をずっと騙していました。  先輩はきっと激怒されるでしょうね。  多分それは、薫も同じで…    こんなことで許されるとは思っていませんが、俺は、もう2人の前には現れません。  先輩。  今まで、本当にごめんなさい…              ーー松原(まつばら)(あきら)ーー  』 晶は手紙を封筒に入れ、まだ眠る神谷の枕元にそっと置いた。 そして最後に、神谷の少しこしがあり硬い黒髪をそっと撫でると、バックを手に、部屋を後にした。  

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