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第2話 いつもの午後
「薫。神谷先輩から電話だよ」
「あ、ごめんごめん」
晶の部屋でゲームに夢中になっている薫に、晶が自分のスマホを手渡すと、薫は嬉しそうに受け取り、神谷と話しだす。
晶のスマホに薫の淡い栗色の柔らかな髪がかかり、その髪を薫が耳にかける。
窓から差し込む光で、薫の白く滑らかな肌が美しく映し出され、長い睫毛がピンクに染まった頬に影を落としていた。
そんな薫の姿を晶は寂しげに見つめる。
薫、嬉しそう。
きっと電話の向こうの神谷先輩も、同じような顔してるんだろうな。
もう、以前のように、俺と薫と神谷先輩。
同じように3人では、過ごせないな…
薫が神谷先輩と知り合う前から、俺は神谷先輩が好きだ。
でもそれは、心の中だけに隠してた。
だって先輩は男だから。
俺はゲイで、
男性しか好きになれない。
俺は今まで惚れっぽくて、一目惚れなんてザラだった。
でも神谷先輩は違った。
始まりは、俺の一目惚れ。
神谷先輩を目で追うだけで嬉しかった。
だけどある日、先輩と目が合い、先輩が俺の方を見て微笑んでくれた。
その時、雷に打たれた…
そんな衝撃が、頭の先から爪先まで走っていったんだ。
そんなベタな……
自分でもそう思った。
でも、それでは押さえがきかなくなるぐらい、先輩に溺れていった。
それから俺は必死になって、先輩との接点を探した。
先輩は高3。
俺は高1。
学年が違うし、
先輩はサッカー部。
俺は帰宅部。
先輩は勉強もスポーツもできて、おまけにイケメンで優しい。
俺は勉強もスポーツもいまひとつ…
決してイケメンではないし、上っ面だけ優しい、偽物の優しさだ。
これのどこに接点がある?
接点…、接点……
そこで俺の頭の中に悪い閃きが浮かんだ。
『そうだ‼︎薫をサッカー部に入部させたらいいんだ‼︎』
家が隣同士、幼稚園からの幼馴染みの薫はスポーツ万能、サッカーだって中学までしてたけど、俺に合わせて高校からは薫も帰宅部になった。
そう思い立った瞬間から、俺は薫にサッカー部に入部するよう説得した。
薫も始めはどうして俺がそんな事を言い出したのか、不思議そうにしていたが、最終的には
『晶の頼みだから仕方ないな〜』
と、承諾してくれた。
薫が入部してからは、俺の思った通りに事は進んでいった。
俺は毎日『薫の練習が終わるまで待っている』という名目で、サッカーをする先輩を見つめ、
人懐っこい薫が先輩と仲良くなり、俺に先輩を紹介してくれると、3人で一緒に遊んだりした。
俺はそれだけで幸せだった。
あの日までは……
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