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第23話 映画のチケット

「え…。さすがに、それは俺、してないと思う……」 「先輩食べてましたよ。俺のポテト、全部…奪い取るように」 「もしポテト食べたかったら、注文するする時、単品で買うと思うし…」 「ですよね。普通そうしますよね。俺も何回もそう言ってお願いしたんですけど、全然聞いてくれなかったじゃないですか‼︎」 「じゃあ、俺、本当に松原のポテト……」 「そうです‼︎奪って嬉しそうに食べてました‼︎」 「ごめん…」 しゅんとする神谷が可愛くて、晶は笑いそうになるのを、必死で堪える。 我慢だ。 笑ったら、先輩の性格上、またしゅんとするから。 俺と薫はバーガーセットだけ。 先輩はいつもバーガーのセットと、単品でもう一つバーガーを頼むんだ。 それで何故か薫、先輩、俺の順番でカウンターに座り食べてたよな。 速攻食べ終わる先輩は、毎回俺のポテトを『ちょーだい』って、笑顔で言うから… あげてしまうんだ。 本当は俺、ポテト好きだから先に食べてもいいんだけど、先輩に『ポテトちょーだい』って言われたくて、毎回、俺がポテト手につけず置いていたの、知ってましたか? 「それで、今日は食べないんですか?おれのポテト」 「…食べて…いいのか?」 「どうぞ。俺もそのつもりでしたから」 晶は神谷に自分のポテトを差し出す。 「ありがとう」 嬉しそうに微笑むと、神谷はポテトを受け取り…… 「一本お返し」 「‼︎」 驚く晶の口の中にポイッとポテトを放り込んだ。 あ、前と一緒だ。 先輩、前も俺がポテトをあげたら『一本お返し』って、ら俺の口の中にポテトを放り込んで… 覚えてた? それとも癖? 「あ、それでさ、この前の映画のチケットなんだけど…」 「…」 映画のチケット。 その話が出ると、胸がチクリとする。 「明日土曜だろ?だからさ、明日一緒に観に行かないか?」 「え?」 「だから、映画…一緒にいかないか?…」 「…」 返事に困り晶が黙り込むと、 「デートだよ、デート。デートしようって言ってんの」 いつもより声を少し大きくして言う。 「え⁉︎待っ……‼︎声が大きいですって」 周りに聞こえてないか、キョロキョロ周囲を見渡しながら、晶が神谷の口を押さえる。 「ひふほ?ひははひほ?」 「はい?」 晶に口を押さえられているので、神谷はうまく喋れない。 「ははら……」 神谷がまた何か喋ろうとし、 「ひゃッ‼︎」 押さえている晶の掌を、ペロリと舐めた。 へ、変な声出た‼︎ 晶はまた慌てて辺りを見回す。 大丈夫だ。 誰もこっちを見てない。 気が付かれてなかった… ほっと胸をひと撫でする。 「先輩‼︎舐めないでくださいよ‼︎」 晶が小声で怒る。 「で、デートの待ち合わせ何時にする?」 神谷はまったく気にしていない。 むしろ少し嬉しそうで… 「…デート…、本当にするんですか?」 晶がおずおず聞くと、 「当たり前じゃん。俺たち付き合ってるんだし」 「そうですけど…」 「休みの日ぐらいは、松原独り占めしたいって思うだろう。普通」 「‼︎」 『今更何を言う』という風に神谷が晶を見るので、晶は赤面し顔を俯かせる。 なにそれ‼︎ 急にそんなこと言われたら、 嬉しくて、恥ずかしくて、どうにかなりそうだ。 「な、いいだろ?」 「…」 「いいって言ってくれないと、また掌舐めるけどいい?それとも首にしようかな……」 「‼︎‼︎ダメです‼︎絶対‼︎」 俯いていた晶が、ガバッと頭を上げる。 「じゃあ、何時待ち合わせ?」 「10時に…駅前で…」 顔を赤くしたまま晶が答えると、神谷は本当に嬉しそうに笑った。

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