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第50話 穏やかな日々 ①
「あき……」
神谷に『晶』と呼ばれそうになり、晶は急いで神谷の口を両手で押さえた。
放課後。
部活に向かう神谷をグラウンドまで送り届けるのが、最近の晶の日課だ。
「先輩‼︎学校やみんなの前では『松原』って呼ぶ約束です‼︎」
晶は小声で怒る。
「2人きりの時でも?」
「例外はありません」
「でも怒った時の晶が可愛くて、つい言ってしまうんだ。だから許して」
「なっ‼︎先輩‼︎」
悪戯っぽく笑う神谷に、晶はいつも振り回されっぱなしだ。
「先輩がそんなことするんだったら、俺、先帰りますよ」
ま、そんな事しないけど。
晶も仕返しにとでもいうように、神谷を横目に見た。
「晶が帰るなら、俺も帰る…」
「先輩は部活に出る!もうすぐインターハイじゃないですか」
そう。
神谷にとって高校生活最後の夏。
そして最後のインターハイ。
ここまでの努力をしっている晶としては、どうしても優勝して欲しい。
なのに、当の神谷といえば…
晶と離れるのが嫌なのか、すぐに部活を休むと言い出す。
「部活に出てくだい‼︎」
「でも俺が部活している間に、晶は帰るんだろ?」
様子を伺うように、神谷が晶を見た。
「…帰らないって言ったら?」
「部活頑張るよ」
神谷は少し口を尖らせる。
なんで少し拗ねてるんだよ。
「わかりました。いつものマッ○で待ってます」
晶がそういうと、
「好きだよ、晶」
「なっ‼︎」
今にもキスをするのではないかと思うような愛の囁きを残し、神谷は部活へ向かった。
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