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第65話 さよなら ①
晶が目を覚ました時、中の精は綺麗に出され、身体も拭かれていた。
そして愛してやまないその人は、晶の隣で優しい寝息をたてて眠っている。
さっきまで、あんなに俺を愛してくれていたけど、
先輩が愛してる人は俺じゃない。
俺を通して見つめる薫ですよね…
俺は先輩が記憶をなくした事をいいことに、
先輩が薫を誰より愛していた事を、なかった事にして、
先輩の最愛の人は俺だと、
信じ込ませました。
はじめは、それでも貴方が欲しかった。
でも、今は?
先輩が俺を愛しい人を見るような瞳で見てくれる度、
俺は思い出すんだ。
先輩が薫に向けていた、瞳と優しい視線を…
先輩の愛しい人は、俺じゃない。
俺じゃないけど、夢見たかったんだ。
一瞬だけでも…
だけど、それも今日で終わりにします。
晶はそっとベットから起き上がり服を着ると、鞄の中から『もしもの時のためのアレ』を取り出した。
何度も何度も書き直した
別れの手紙を…
『神谷先輩
今まで俺は、先輩に嘘をついていました。
先輩が愛した人は俺ではありません。
先輩の隣で息を引き取った、長谷部薫です。
先輩が事故と薫を亡くしたショックで、記憶をなくした事を俺は利用して、先輩をずっと騙していました。
先輩はきっと激怒されるでしょうね。
多分それは、薫も同じで…
こんなことで許されるとは思っていませんが、俺は、もう2人の前には現れません。
先輩。
今まで、本当にごめんなさい…
ーー松原 晶ーー 』
晶は手紙を封筒に入れ、まだ眠る神谷の枕元にそっと置いた。
ありがとうございました、神谷先輩。
俺に夢を見せてくれて…
俺、本当に幸せでしたよ。
多分、これから先、これ以上の幸せなんてないぐらい…
幸せでした。
先輩、最後言えなかったですが……
大好きでした…
最後に、神谷の少しこしがあり硬い黒髪をそっと撫でると、バックを手に、部屋を後にした。
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