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第68話 さよなら ④
「さよなら、先輩…」
最後に神谷の姿を、目に焼き付けるように晶は神谷を見つめてから、その場を去ろうとした時、
!!!!
晶は神谷に腕を掴まれ、引き寄せられ、
神谷の大きな胸の中に引き込まれた。
「知ってた…」
神谷は晶を抱きしめながら、ぽつりと呟いた。
「知ってた。晶が俺に隠し事してたこと…」
!!!!
やっぱり、知られてた……
「でも、俺、気がつかないふりしてた…。もし、気がついてるって、記憶が戻ったって晶が知ったら、俺の前からいなくなるんじゃないかって…」
⁉︎⁉︎
どういう意味⁉︎
「晶に好きな人がいて、いつもその人の事を考えてるんだって。だから、晶は俺との間に壁を作ってるんだって」
そんな…
先輩がそんな事思ってたなんて……
「俺、初めて晶と繋がれた時、記憶が戻り始めたんだ。あの時感じた心の底から震えるような幸せと、晶と繋がれた時の愛しさで」
晶を抱きしめる神谷の力が強くなる。
「はじめは、本当に晶と長谷部の事、わからなかった。晶に声をかけたのも、母さんに言われたから。でも、晶を見てると俺には大切な人がいて、その事を忘れてしまってる事が、凄く悲しくて…。だから晶に『大切な人のことぐらい覚えておきたいんだ…』って言ったんだ」
「…」
「晶といて、本当に楽しかった。晶が笑ったり、驚いたり、困った顔をしながら最後には許してくれたり、少し怒ったりした顔を見るたび、俺だけに見せてくれているって考えると、好きが止まらなかった…」
「‼︎」
「それで確信したんだ。『記憶がなくなる前、俺が好きだったのは晶だ』って…。そう思ったら、忘れてたことが嘘みたいに、ぶぁーって思い出してきたんだ。全部。俺の好きな人は前も今も晶だって。晶の好きな人が俺だったらいいのにって…」
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