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第69話 手紙 ①

嘘だ。 そんなの嘘だ‼︎ 「違います‼︎先輩の好きな人は薫です!」 そうじゃないとおかしいじゃないか‼︎ 校庭の中庭で告白していたのも、 毎日何回も薫に電話をかけて来ていたのも、 薫を見つめるあの瞳も、 全部嘘になる! そんなの間違ってる‼︎ 「違わない‼︎」 「違います‼︎先輩は間違ってる‼︎記憶を取り戻したいから、そう錯覚してるだけです‼︎…だから、この腕も離してください‼︎先輩が抱きしめていいのは、薫だけです‼︎」 先輩と肌を重ねておいて、今更、俺はなんで綺麗事を…… でも、間違ってるんだ。 本当に抱きしめられるのは薫で、 俺じゃない… 「なぁ、晶の好きな人って誰なんだ……」 不安で揺れる神谷の瞳と、涙でうるむ晶の瞳がぶつかる。 今更そんな… 好きでもない人と、あんなに一緒にいたいって思わない。 一番近くで感じていたいなんて思わない。 あんなに肌を感じていたいなんて思わない。 こんなに、心が震えたり、 先輩の事を考えると、涙が溢れてなんてこない… 「…。今更そんな事…聞かないでください…」 『俺が愛してやまないのは、先輩ただ一人』だなんて、言えるわけない… 晶は神谷から視線を逸らす。 「晶が俺の事を好きでなくても、好きになってくれるまで諦めない。離さない。どこにも行かせない。俺は晶から離れるつもりはない!」 「…、間違ってる…」 晶の目から止まっていたはずの涙が、また流れ始める。 間違ってる、 間違ってる、 間違ってる…… 「なぁ晶。晶がいなくなったって長谷部のおばさんに言ったら、晶は絶対、長谷部に会いに墓《ここ》にいるって教えてくれて、晶にあったらコレ渡して欲しいって…」 神谷は鞄の中から、一通の封筒をとりだし、 「俺も内容しらない。晶宛だから…」 晶に手渡した。 神谷から封筒にれた薫からの封筒には、こう書かれていた。 『松原 晶様へ』 そして、裏側には、 『絶対、絶対今すぐ俺の前で開けること』 と。 そこには遊園地のペアチケットと、手紙が同封されていた。

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