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第68話 蓮の過去 ⑤

どれぐらいベンチに座っていたのだろう… 日も少しずつ落ち始め、辺りが暗くなり始める。 その間も蓮からの着信はあったが、自信の持てない真司は電話に出る事ができずにいた。 でも、こんな事をしていても、何も変わらない… 真司は意を決して蓮に電話をした。 一度目の呼び出し音。 二度目の呼び出し音… 三度目の呼び出し音が切れそうになったとき、 「真司!今どこにいる⁉︎」 電話越しに、焦った蓮の声が聞こえた。 「電話に出なくて、ごめん…今、公園にいるんだけど…どこの公園かはわからない…」 蓮の声を聞いてしまうと、今すぐにでも会いたくなる。 「今から迎えに行くよ。何か目印はない?それで、家に着いたら、話をきいてくれないか?」 蓮の悲しそうな声。 「蓮、椿ちゃんは?」 「まだ俺達の家にいる…今説得してるんだけど、家には帰りたくないって…」 俺達の家…か… その響きだけで、真司は嬉しくなる。 椿ちゃんは高校生ぐらいだろう… その女の子が兄の家にまで来て、泣きながら訴え、家には帰りたくないと言っている。 それ程まで、思い詰めた事があるんだろう… そんな子を、こんな暗がりの中追い出せない。 「蓮、今日は椿ちゃん家に泊めてあげて。俺はどこかに泊まるよ」 「‼︎でも!」 「蓮の話を聞きたくないわけじゃないんだ。ただ、あんな女の子をほっておけないよ。それに俺がいない方が椿ちゃんも蓮と話しやすいとおもうし」 「それじゃあ、真司は…」 「野宮の家にでも泊めてもらうから大丈夫」 「…」 「椿ちゃんも、蓮と話がしたくて出てきたんだろ?今日はしっかり聞いてあげなよ」 「でも、真司はそれでいいのか?」 「いいよ。蓮に何かあったとしても、それは蓮が必要に迫られ考えした事で…だから、それで蓮の事、嫌いになったり、信じられなくなったりはしない。だって、昔の蓮も今の蓮も、蓮は蓮だろ?それに、俺と椿ちゃんの板挟みで辛い思いをしているのは蓮じゃないか」 「…ありがとう…真司…」 蓮の声が泣きそうになる。 「また野宮と連絡取れたら、電話する」 「ありがとう、真司。連絡待ってる」 安心した蓮の声を聞いて、真司も安心した。

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