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第116話 サプライズ

野宮と真司は出来るだけ仕事を早く終わらせ向かった先、真司が蓮と初めて会った思い出のバーだった。 店内はまだ薄暗く、営業し始めたばかりなのか、奥のテーブルに数名の人が飲んでいた。 「野宮もここのバーに来てたんだな」 今までここで会った事なかったから、知らなかったけど、野宮もここにきてたなんて世間って意外と狭いんだな… 「俺は教えてもらったところだからな…」 野宮は店内をキョロキョロと見回していた。 ん? 野宮は人に教えてもらったと言うことは、ここには来たことがなかったということか? 「野宮、ここに来たのって初めてなのか?」 「まあな」 野宮は『バレたか』とでもいう風に笑う。 「実は、ここである人と待ち合わせをしてて…って、あ!こっちです」 野宮が店の入り口から入ってきた二人組に手を振る。 ‼︎‼︎ 「蓮⁉︎!」 「真司⁉︎!」 店内に入ってきたのは、蓮と林だった。 蓮も真司も驚いて、一瞬固まり目を見開く。 「蓮、どうしてここに?」 「どうしてって、林さんに彼氏の事で相談があるから、行きつけの落ち着いた店で話したいって…って、真司はどうしてここに?」 「俺も落ち着いたところで話がしたいって、この店に…」 林さんは彼氏の相談。 野宮は仕事場では言えない相談… !! もしかして、それって… 「野宮、お前林さんと付き合ってるのか⁉︎」 蓮も同じことを思ったのか、林と野宮を交互に見る。 「違うよ…会うの今日が2回目」 今日が会うの2回目って… どう言う事だ? 「チーフ、佐々木さん本当は彼氏について相談したいって事は嘘なんです…実はここにある人が来てて…もういいよ」 林が声を掛けると、店の奥のテーブルから誰か出てきた。 え⁉︎⁉︎ 「椿!どうしてここに⁉︎」 店の奥から出てきたのは、この場所に似つかわない椿が、手を後ろに隠したまま蓮との真司の方に歩み寄ってきた。 「お兄ちゃん、真司さん、ご婚約おめでとうございます」 椿は背後から大きな花束を出し、蓮と真司に手渡す。 「‼︎」 「‼︎」 何が起きているのかわからない真司と蓮は椿からの花束を一緒に受け取り、お互いの顔を見合わせていると、奥のテーブルから拍手がおこり、そこで飲んでいた人達が真司と蓮の周りに集まってきた。 「松野⁉︎…‼︎姉さん⁉︎」 「大山くん⁉︎…‼︎義母さん⁉︎」 そこには松野と大山、真司の姉、蓮の義母がいた。 これって…… どう言う事だ? 「驚いた?」 椿は嬉しそうに情況が把握できず驚いたままの蓮との真司の顔を覗き込んだ。 「ああ、驚いた…椿これはどう言う事?」 蓮が現場が把握出来ないと、椿に問いかけた。 「今日はお兄ちゃんと真司さんの婚約サプライズパーティー。本当におめでとう。お兄ちゃん、真司さん」 「おめでとう!」 「おめでとうございます!」 椿は嬉しそうに蓮と真司の手を握ると、口々に蓮と真司に対するお祝いの言葉が投げかけられる。 「ありがとう…ありがとうございます!」 「ありがとうございます‼︎」 ようやく現状を把握した真司と蓮が心からのお礼を言った時、嬉しさから、二人の目には涙が溜まっていた。 「今から佐々木先輩から一言いただきたいと思います…先輩、お願いします」 と、言いながら松野が真司と蓮にシャンパンを手渡す。 「今日は俺たちのために、こんなに素敵なパーティーを企画、開催していただきありがとうございます。同性同士の婚約はなかなか認めてもらえないと思っていたので、こんな盛大に祝っていただき、本当に嬉しいです。ありがとうございました」 真司と蓮が皆んなに頭を深く下げると、また拍手があがる。 「それでは、お二人の末永いお幸せを願って…乾杯!」 「乾杯‼︎」 「乾杯‼︎」 松野の乾杯の音頭で店の中に『乾杯』と言う声と、グラスがあたる音が響いた。 店の中に食事が運ばれて、立食形式でパーティは進んでいった。 「今回はおめでとうございます」 林は真司と蓮にシャンパンを手渡した。 「チーフ、今回のサプライズ企画したの椿ちゃんなんですよ」 林が遠くで野宮と話している椿の方を見る。 「え!椿が⁉︎」 「実は私、椿ちゃんと同じ中高一貫校に行ってて、椿ちゃんは私の後輩になるんです」 「…椿、そんなこと一度も言った事がなかったから、知らなかったよ」 「後輩と言っても直接知ってたわけじゃないんです。私の後輩の後輩…遠いですけど、何回か遊んだことがあるぐらいで…でも、椿ちゃんは私の事覚えてくれてて、連絡くれたんです」 「そうだったんだね…でも、そんな事して、椿は父さんに怒られないか心配だよ…」 蓮は心配そうに椿を見つめた。 「それは心配ないと思いますよ」 「?」 蓮が不思議そうに首を傾げる。 「だって、ここを借りるお金も、今回かかった費用も、全部チーフのお父さんが出されてますし」 「‼︎」 え⁉︎それって蓮のお父さんは、蓮の事認めたってこと⁉︎⁉︎ 「詳しい話しは椿ちゃん本人から聞いた方がいいですね…」 そう言うと、林は椿を真司と蓮の元に連れてきた。 「椿…この事、父さんが知ってるって本当か…?」 蓮はまだ信じられないという表情で椿に聞く。 「そうだよ。私とお母さんで説得したんだから。最初はね、全然話聞いてくれなかったんだけど、最終最後、お母さんが激怒してね…」 「…」 「『ご自分の偏見と、息子の幸せとどちらが大事なんですか⁉︎⁉︎』って…あの穏やかなお母さんがだよ」 「‼︎」 「‼︎」 蓮と真司が呆気にとられてるそばで、椿はその時のことを思い出したかのように、クスクスと笑い出した。 「それでお父さんも目が覚めたみたい。サプライズの事お父さんに相談したら、費用は全部出すって言い出したのお父さんなんだよ」 「…」 「それにね、お父さんが真司さんと家に遊びにおいでって…自分で言えばいいのに、それは恥ずかしいんだって…お父さんも可愛いところあるんだね」 椿が嬉しそうに笑う隣で、蓮の瞳からは次から次へと涙が溢れ、頬を伝っていった。 「蓮、よかったな…」 俯いたまま、涙を流している蓮の顔を真司の肩に引き寄せる。 「…うん…」 「またお父さんのいい日にいかせてもらおう…」 「うん」 蓮は力強く頷いた。

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