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番外編「暮羽がいない3日間」
暮羽が拉致されてる3日間?を広瀬視点で書いた説明回です。
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雪村君から緊迫した電話がかかってきた。
何を言っているのかいまいち聞き取れなかったけど、最後に遠くから聞こえたのは高杉の声だった。
嫌な予感がして雪村君のアパートに向かう。
そしてアパート近くの道にボディバッグと携帯電話が落ちているのを見付けた。
どちらも雪村君の物だった。
その場で警察に電話する。
友人がストーカーに拉致されたかも知れないと説明した。
雪村君と高杉の名前や特徴を告げると、高杉の事は調べるが決定的な証拠がないと令状が取れないので家宅捜索などはできないと言われた。
仕方の無い事だとわかっていても、積極的に動いてくれない警察にイライラした。
武田君と品川君に相談すれば雪村君の実家に連絡を入れてくれるかも知れない。
高杉の実家にも連絡を入れる必要がある。
とりあえず、雪村君のバッグと携帯電話を回収して帰宅した。
帰宅後に武田君と品川君に電話を入れる。
武田君と品川君なら雪村君とは高校からの友達らしいから、雪村君の実家へも連絡できるだろう。
雪村君の実家への連絡は彼らに任せよう。
詳しい事は明日、ファミレスに集まって話し合う事になった。
翌日、約束通り指定されたファミレスに向かうと、武田君と品川君はすでに来ていた。
「暮羽が拉致されたって、マジですか?」
注文したコーヒーを飲みながら、硬い表情で武田君が訊く。
僕は沈痛な面持ちで頷いた。
「証拠はないけど、おそらく高杉に拉致されたんだと思うよ。昨日の夜、雪村君から電話がかかってきたんだ。何を言ってるのか聞き取れなかったけど、高杉の名前は出していたから。最後に高杉の声も聞こえた。電話の後すぐに雪村君のアパートに向かったら、アパートの近くにボディバッグと携帯電話が落ちてた」
「マジか······」
品川君が絶句する。
冗談半分で雪村君に“拉致って監禁するつもりかも”と言った事があったらしい。
まさか現実になるなんて、と武田君も苦々しい顔で呟いていた。
「飲み会の後に拉致されたんだな。家まで送ってやれば良かった」
武田君が悔しそうに言う。
「警察にはすぐに通報したんだけどね。証拠がないと家宅捜索とかは令状取れないらしくて。一応、高杉の近辺は調べてくれるって。訪問して本人が居れば職質もしてくれるみたいだけど」
「あんまり期待はできないですよね」
「警察に目を付けられてるって高杉が気付けば、プレッシャーを与える事はできるだろうけどね。そしたらボロを出すかも知れないし」
「警察はどこまで動いてくれるかなあ?」
「家を訪問するくらいしかしてくれないと思うよ」
ため息をつく。
「俺らも警察に電話してみますね。複数から通報あれば少しは積極的に調べたりしてくれるだろうし」
武田君がそう言うと、品川君も同意を示した。
「あと、暮羽の実家には事情を説明して捜索願いを出してもらうように言っておきます」
「頼むよ」
「拉致されたとなると、ストーカーの事も親御さんに黙っておく訳にはいかないだろうしな······上手く誤魔化しておかなきゃな」
品川君が頭を抱えた。
雪村君がストーカー被害に遭っている事は雪村君の親は知らないらしい。
その後、写真サークルのメンバーにも事情を説明して、メンバー総出で高杉を探したりした。
けど高杉の足取りはなかなか掴めなかった。
警察からは、高杉の住居に訪問したが不在だったという連絡が来た。
引き続き訪問をお願いしますとは言ったけど、どこまで動いてくれるかはわからない。
どうやら高杉は自分が探されている事には気付いているらしい。
上手く行方をくらましているみたいだ。
雪村君が拉致されてから4日目に入っただろうか。
警察は積極的には動いてくれない。
水面下で高杉の事を監視してくれてはいるんだろうけど、高杉が上手く逃げ回っているせいで進展がない。
高杉の実家にも連絡を入れたが、取り合ってくれなかったから協力は期待できない。
雪村君の実家には武田君が事情を説明してくれたようだ。
ストーカーの事と拉致られた事は上手く伏せてくれたようで、何日か家に帰っていないのと連絡が取れないので、捜索願いを出してみて欲しいと依頼したようだ。
雪村君の実家からは、もう何日か様子を見てから捜索願いを出すという返事が返ってきたらしい。
雪村君の家族はかなりのんびり屋なようで、雪村君のお母さんは「何も言わずに何日も留守にする事はよくあるから、まあそのうち帰ってくると思いますけどね〜」なんて呑気に言っていたようだ。
拉致られた事を知らないからこんな反応なのだろうか。
とにかく、これ以上は待っていられない。
武田君と品川君に、高杉の部屋に行ってみる事をメールで知らせてから家を出た。
高杉の部屋はマンションの5階だ。
いるかどうかはわからないけど、インターホンを何度も押す。
中で争うような物音と声が聞こえるけど、くぐもっていて何を争っているのかまではわからない。
けど、何かがあったようだ。
諦めずに何度もインターホンを押していると、ドアのチェーンが外されるような音と、鍵が開く音がした。
しかしドアが開く気配はない。
中で何が起きているか確かめるために、ドアノブに手をかけた。
意を決してドアを開けると、目に飛び込んで来たのは雪村君の姿だった。
高杉に襲われたようで腕に怪我を負っていた。
僕の胸に飛び込んで、恐怖で肩を震わせている。
そして高杉は、呆然とした顔でこちらを見ていた。
もう何かしてくる事はなさそうだったけど、一応高杉には金輪際雪村君に近付かないように言っておいた。
警察に通報するかどうか迷ったけど、今は雪村君の事が優先だと思いこの場では通報しなかった。
そして雪村君を僕のマンションに連れて行く。
病院に行こうと言ったら、大ごとにしたくないから行きたくないって言う。
幸い、怪我は大した事なかったからきちんと消毒しておけば大丈夫だろうけど。
震える手で傷の手当をして。
拉致に監禁、怪我までさせられたんだから警察に被害届を出せば高杉を逮捕してもらえると言ってみたけど、雪村君はそれは拒否した。
男なのに男にストーカーされた挙句、監禁されたとなると世間からは好奇の目が向けられるだろう。
だから大事にはしたくないと。
それもそうだと思った。
今後、雪村君が被害を受ける事がないなら高杉の事は放置でもいいのかも知れない。
こんな時に言うのも迷惑だとは思ったけど、雪村君に自分の思いを告げた。
最初は戸惑っていたけど、雪村君も自分の気持ちに気付いたと言って僕の事を受け入れてくれた。
武田君と品川君は協力してくれると言っていたけど、そう簡単に行く訳はないと思っていたから本当に嬉しかった。
あれから1年。
暮羽は今も僕の傍にいてくれている。
写真のモデルで女装するのも慣れてきたようだ。
前ほど嫌がらず、女物の服を着てくれるようになった。
恥ずかしがり屋なところは変わらないけど。
武田君と品川君とも相変わらず仲良くしている。
彼らはまだ彼女も作らず、それぞれ趣味に没頭しているみたいだ。
あの後、第二の高杉が現れるような事もなく平和に過ごしている。
これから先も、こんな風に平和に楽しく過ごせたらいいなと思う。
僕の隣りで暮羽が笑ってくれていれば、僕はそれだけで幸せなんだけど。
終。
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