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ワガママ王子と悪戯猫(1)
年末年始の大わらわな日々からようやく解放され、時間にも気持ちにも余裕がでてきた頃。
年明けに一本入っていたテレビ番組の収録を終え、午後十時過ぎ、いつものように悠さんを家に送る途中だった。
唐突に、待ちかねたように、後部座席におさまった悠さんが口を開いた。
「なあ颯人、いつからウチに来る?」
俺は意図をはかりかねてルームミラーで悠さんの顔をちらりと見た。
僅かに唇を尖らせて、王子様は何かご不満の様子。
「ウチに来るって……、今まさに悠さんの家に向かってる最中ですけど」
そう答えたら、悠さんの不満ゲージが八割くらいまで一気に溜まった。
「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇよ。そうじゃなくて、その……引っ越しの話。心配で仕方ねえから、早めにしたいんだけど」
悠さんは自らの言葉通り、落ち着きなく髪をかきあげる。
「心配って何がですか?」
「今日も遅くなっちまったろ?颯人一人で帰すの嫌なんだよ。明日にでも荷物まとめて、アパート解約してこい。でなきゃ俺が颯人の送り迎えするぞ」
「無茶ですよ。荷物まとめるのに時間ください。一か月くらい」
そう言ったら悠さんが大袈裟に目を剥いた。不満ゲージはMaxだ。
「そんなに待てるか!もういい、今日はこのままウチに泊まって、後から荷物持ってこい!」
「え、今日からですか?」
「明日は休みだ。どうとでもなるだろ。これ以上俺を待たせるな!」
「そんな、横暴です」
無駄だろうが一応抵抗してみる。
「颯人が甘すぎなんだよ!前に駅のホームでテメエのケツ揉まれてんのに気づかない時あったろ。あれから心配なんだよ。自己防衛できてねえって判ったからな」
そうこうしているうちに、悠さんの家に着いてしまった。
珍しくさっさと車から降りた悠さんは、運転席のドアを開けると、俺の手を取って外に出るよう促した。
「ほら、降りろ。寒ぃんだから早くしてくれ」
俺は渋々エンジンを切って車外に出た。
身を切るような寒さの中、悠さんの大きな手に包まれた右手だけが温かい。
悠さんは、つないだ俺の手ごとコートのポケットに手を入れてくれて、そのまま二人一緒に庭を歩いて家に入った。
玄関で悠さんが靴を脱ごうとしないので、どうしたのかと俺が悠さんを見上げたら、暖かなコートの中に抱きしめられて、優しいキスが降ってきた。
悠さんが囁く。
「おかえり」
「た、ただいま帰りました」
「今日からここが颯人と俺の家なんだからな。間違うなよ」
「……はい」
悠さんとずっと一緒にいられる。それがくすぐったいほど嬉しかったので、思わず微笑んで返事をしたら、悠さんも嬉しそうに笑って、もういちどぎゅっと抱きしめられた。
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