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『本当に、男で良かった。これが女だったらと思うと心底、肝が冷える』
「何か言ったか?」
「いいや。入るよ」
そう話しながら昂遠が自らの帯をシュルシュルと解き始めた。
それを見て、遠雷は上機嫌で両手を挙げると左右に揺らし湯の中で踊っている。
「おお!入れ入れ!早く入らねば風邪を引くぞ~!」
『・・・前言撤回。さっきの破壊力は何処へやった?』
ズキズキと痛む頭はきっと気のせいだ。
頭を振った昂遠が、ちゃぷんと湯の中に入ってみると湯の加減は丁度良く、温かい熱が全身を包んでいった。
「はぁ・・気持ちいい」
「だよなぁ・・俺、風呂がこの国の中で一番好きだ」
「・・奇遇だな。俺もだ」
顔を何度も洗いながら昂遠が呟いている。
二名は暫くの間、湯に浸かったまま会話をしようとはしなかった。
時折、互いの視線が交互に交わることがあっても、ただ見詰め合うだけでどちらも湯から離れようとしない。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
ちゃぷんと揺れる湯の音だけが、互いの心を満たしていく。
不意に正面に座している遠雷がポツリと問いかけた。
「なぁ」
「ん?」
互いの湯が静かに揺れて波を立てる。視線を眼下に落として初めて互いの足を見た。
昂遠の足のつま先が遠雷の足に触れる度に彼が足を引っ込める。次いで遠雷が足の指を昂遠の足に近づけると、触れる直前に昂遠は自身の足を避けた。
「・・・・・・・・・・」
肌と肌を寄せ合う度に水面が揺らぎ、自身の足に視線を向けていた遠雷がポツリと呟いた。
「・・・まぐわうか?今から」
「・・・・・・・・・」
「俺は構わんぞ?」
昂遠は何も答えない。遠雷がちらりと昂遠を覗けば、伏し目がちに思案しているようにも見える。義兄弟の契りを結ぶ前から、気が付いたら身体も重ねてしまっている彼らには互いの肌や熱に触れる事が愛情といっても良いものなのかハッキリしない。
けれど、深く重ねている間だけは熱に浮かされたように互いの事しか考えられなくなる。
緩やかな動きで袖を翻し、長い髪を揺らす遠雷の肌を背後から攻めれば、次第に淫猥の色が増し、甘く強請るような灰色の瞳には困惑の情が浮かび、やがて頬は桜に染まるのだ。
「・・・ん・・」
伸びた遠雷の指が昂遠の頬から顎へと伸び、互いの唇が重なるとすぐに離れていく。
角度を変えながら昂遠が遠雷の唇に吸い付けば、高く甘い嬌声が零れて落ちた。
「ん・・・」
ぴちゃぴちゃと舐め合うように舌を絡ませたかと思えば、昂遠の唇が遠雷の首へと向かい、白い肌へ吸い付けば、遠雷の腰がびくりと強張った。
「んぅ・・・」
絡み合う二匹の蛇を彷彿とさせるようなその動きは甘く、昂遠の手が遠雷の腿を持ち上げると「あっ・・」と彼の口から声が漏れた。
「・・挿れるぞ」
「あっ・・だめ・・まだ・・」
「これでも?」
昂遠が遠雷の腕を後ろに回し自身の雄に手を触れさせると、彼の指がビクリと強張った。
「・・あ・・あ・・」
引っ込めようとした遠雷の腕を取れば、その肌は冷たく冷えて乾いている。
掌を自身の硬く勃ちあがった先端に近づけると、ひんやりと冷気が伝った。
「あ・・」
「触って教えてくれ・・どうなってる?」
「・・いっ・・いゃ・・」
遠雷が頭を振って答えるも、昂遠の声は変わらず穏やかなままだ。
「教えてくれないと分からないだろう?」
遠雷の指が戸惑いを隠せないと言った様子で左右に揺れている。その動きはまさに触れていいのか?そうでないのか?という心境を表しているかのようだ。
「・・・お前の手で擦ってくれ・・このままでは少し辛い」
「あ・・あ・・」
遠雷の唇がブルブルと震えている。指を伸ばしたその先は既に硬く、昂ぶりを隠せないままだ。その熱に指の先端が触れた時、遠雷の喉がごくりと唸った。
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