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いじっぱりにキス 第1話(佐々木)
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――数週間前、酔っ払った親友に襲われました……
でも、そうなるように仕向けたのは……俺……
友達以上の関係になりたかったわけじゃない……
いわゆる、魔が差したというやつだ。
ただ……長年抱えてきた想いを伝えたかっただけ……
***
『――というわけで、俺が出張の間、頼める?』
『了解です』
『助かるよ。お願いします』
夏樹からのメールに、苦笑する。
過保護だなぁ……まぁ、俺も人のこと言えないけど。
夏樹が二泊三日の出張で家を空けるので、その間は雪夜を佐々木の家に泊めてくれというものだった。
夏樹は雪夜の恋人で、今は二人で同棲している。
普通なら、もう子どもじゃないんだし、二泊三日くらい一人でも大丈夫だろ。と笑うところだが、雪夜はつい数か月前、隣人トラブルに巻き込まれて、しばらく精神的にかなり不安定になっていた。
だいぶ落ち着いてきたものの、まだ時々不安定になる雪夜を二日間も一人にしておくのは心配……という気持ちはわからんでもない。
というか、そんなの頼まれなくても、俺の方から雪夜を家に誘うっつーの。
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「それでぇ~雪ちゃんはさぁ~……なんでそんなにお肌ツルツルなのさぁ~?」
相川が、雪夜の頬を指でツンツンする。
「え~?ツルツルかなぁ~?」
雪夜は両頬をムニッと引っ張りながら、小首を傾げた。
「うん、トゥルットゥル!!」
「あははっ、何それ~!ん~とねぇ~……朝とかぁ~お風呂上りとかにぃ~夏樹さんがね~なんかぬりぬりしてくれるの~!だからかなぁ~?」
「はぁ~?夏樹さんが~?何だよラブラブだなぁ~!」
「でしょ~?ラブラブなのぉ~!夏樹さんはね~ちょー優しいんだからぁ~」
佐々木は、雪夜と相川の会話を聞きながら吹き出した。
二人の方に向けていた携帯を、自分の耳に当てる。
「聞こえましたか?」
「聞こえた……雪夜めちゃくちゃ可愛っ……じゃなくて、酔ってるじゃないか……一体どれだけ飲んだの?」
電話の向こうで悶 える夏樹が安易に想像できる……
「え?雪夜ですか?え~と……チューハイ1本……まだ飲み切ってないですね。その他はノンアルの普通のジュースしか飲ませてませんよ」
「え、チューハイ1本!?それであんなになってるの!?」
「あ~だいたい飲んだらこんな感じですよ……まぁ、心配しなくても、さすがに他のやつらがいるところではここまで酔わせませんよ?」
「当たり前だっ!!ちょっと雪夜に代わって」
「え?あぁ、はいはい、ちょっと待ってくださいね、雪夜~、夏樹さんから電話~!」
佐々木が雪夜に携帯を渡す。一応念のためスピーカーにして、佐々木にも内容が聞こえるようにした。
「え~?夏樹さん~?もしも~し……」
「雪夜?大丈夫?」
「夏樹さんだぁ~!大丈夫ぅ~!ぅふふ、夏樹さんの声だぁ~!」
「……ぅん……ご機嫌だね。まぁ、楽しそうで何よりだよ」
「楽しいですよ~?楽しいけど~……でもね……夏樹さんがいないの~……なんでいないのぉ?」
「あ~……うん、ごめんね。明日の夕方には帰るから」
「やだぁ~!!もっと早く帰ってきてっ!!」
「っ!?……うん……俺も早く会いたいよ」
「夏樹さんに会いたいぃ~……ひっく……っ」
佐々木は軽く舌打ちをすると、急いで雪夜の手から携帯を奪い取った。
「はぁーい、ちょっと失礼!!雪夜が泣いちゃったからここまでっ!!まだ半日は耐えてもらわなきゃいけないのに、またこの間みたいになっちゃったらどうしようもないからっ!!……つーか、泣かすなよっ!!」
「いや、俺のせい!?っていうか、雪夜って泣き上戸なの!?さっきまでめちゃくちゃ機嫌よかったのに……」
「は?いや、基本的には笑い上戸ですよ。……だから、あんたのせいでしょ~!?もぉ~!こっちはこれから雪夜を泣き止ませなきゃいけないから切るぞ!?」
「すみません……よろしくお願いします……」
「はいはい」
佐々木は通話を切ると、泣きじゃくる雪夜とそれをよしよししている相川を見た。
やれやれ……素面 の状態でも不安定になったら俺じゃどうしようもなかったのに、酒の入った雪夜を泣き止ませられるかなぁ~……
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