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特別なキスの日!(佐々木)
「大変大変!!」
佐々木が寝ていると、急にドアが開いて相川が飛び込んできた。
鍵は閉めて寝たはずだが、合鍵を持っている相川にはそんなこと関係ない。
「なぁ、翠 !大変!起きて!」
「ん~?なんだよ……俺寝たの4時で……」
佐々木は目を閉じたまま枕元に置いてある携帯に手を伸ばし、片目を開けて時刻を確認すると、また目を閉じた。
時刻は朝の7時。
昨夜はラストまで居酒屋のバイトに入っていて、帰宅してからレポートと家庭教師のバイトで使う資料をまとめて……とにかく、寝たのは明け方前の4時過ぎだった。
「翠ってば!起~き~ろ~よ~!」
人の話を聞かない相川が、寝ている佐々木の上にダイブしてきた。
「ぐぇっ……お……っま……げほっ!」
体格的に自分よりもデカい相川に飛び乗られて、佐々木は潰されたカエルのような声を出した。
「……っのばかっ!自分の体重考えろっ!!」
咳き込みながらようやく声を絞り出す。
「あ、ごめん。だ、大丈夫!?一体誰がこんなひどいことを!!」
「おまえしかいねぇだろうがっ!!退けおらっ!」
寝不足と寝起きと痛みとでイライラのピークだった佐々木は、自分の上に乗っていた相川をベッドから思いっきり蹴り落とした。
「痛たたっ……ひどいな~……」
「無防備な状態の俺を潰したおまえよりはマシだろうが!んで?何だよ一体」
話を聞くまでは眠らせて貰えなさそうなので、とりあえず起き上がった。
欠伸をしながら、軽くうなじを掻く。
「あ、そうそう!キスしてもいいですか!?」
「……は?」
相川が説明下手なのは、もう長年の付き合いでわかっている。
そして、いろいろと唐突なのも知っている……が……
「今日ってキスの日なんだってさ!」
「キスの日~?」
「うん!」
「ちょっと待て。キスの日って23日だろ?」
数日前、「今日はキスの日なんだってさ~!」と言って、佐々木だけじゃなく雪夜にまでちゅっちゅしまくって、夏樹に頭を潰されかけていたのはどこの誰だっけ?
「もうキスの日は終わっただろ」
「俺にとっては今日もキスの日!!」
「……は?」
「今日は翠だけの特別なキスの日だから!」
「何言って……んんっ!?」
相川の言っている意味がわからず顔をしかめた佐々木に、相川がニコニコ笑いながら近づいて来て口唇を重ねてきた。
「ん~!……なにすん……っ!?」
両手で相川の顔を挟み、引きはがす。
「翠、誕生日おめでとっ!」
「……は?」
「やっぱり忘れてる。翠って、他人の誕生日はちゃんと覚えてるクセに、自分の誕生日はいーっつも忘れちゃうんだよな~。……まぁ、そこがいいんだけどな」
相川が先ほどまでのふざけた様子が嘘のように、ふっと優しく笑う。
だからっ……急に真面目になるなっつーの!
ふざける相川は面倒くさいしウザいが、照れ屋でひねくれている佐々木にしてみれば、ふざける相川の相手を仕方なくしているていでいるのが、一番ラクだ。
相川のことは好きだし、今は一応恋人同士でもあるし、やることはヤっている……だけど、相川に真面目な顔をされると……どうすればいいのかわからなくなる……
「わ、忘れてないっ!寝起きだったから、わからなかっただけだし!」
熱くなる顔を手で隠しつつ視線を逸らした。
「今日が23日じゃないっていうのはすぐにわかったクセに?」
「ぅ……」
「まぁいいや。んじゃ、そういうことで!」
「え?」
相川が身体を起こした。
「どこ行くんだ?」
「ん?帰るよ。翠、寝てないんだろ?」
「あ……えっと……」
確かに寝不足だけれど……わざわざ誕生日を祝いに来てくれたのに……
「そんな顔しなくても大丈夫だって~!今夜は雪ちゃんたちも来て、みんなで翠の誕生日パーティーするからさ。昼までゆっくり寝てろよ。眠たいのに起こしてごめんな?」
佐々木の頭をポンポンと撫でると相川が立ち上がった。
「待っ……」
佐々木は思わず相川の服の裾を引っ張っていた。
「なに?」
「……から……」
「ん?」
「いてもいいから……っ!っつーか、た、誕生日なんだから……傍にいろよっ!」
赤くなった顔を見られないように、俯いたまま、怒鳴った。
自分でも可愛げがないとは思う……けど、こういう言い方しかできない……
「……ふふ、りょーかい!」
相川はニカッと笑うと、佐々木にキスをしながらベッドに押し倒した。
「ちょ、相川!?」
え、ちょっと待て、今からヤるのか?そういうつもりじゃなか……ちょ、先に準備を……っつーか俺昨日風呂入ってないっ!!
焦る佐々木をよそに、相川はタオルケットを被せると、佐々木の胸をトントンと軽く叩き始めた。
……あれ?
「……なにやってんだ?」
「翠を寝かしつけてる」
「……え?」
「誕生日だから特別だぞ~?はい、ねーんね」
「なんだそれっ!」
「寝不足の恋人を襲う程、飢えてねぇもん。前にも言っただろ?おまえに無理させたいわけじゃないって。だから、おまえが元気な時に抱かせて?」
そう言うと、佐々木の顔中に軽いキスを落としてきた。
なんだそれ……俺ひとり焦って……バカみてぇ……
恥ずか死ぬ……!!
佐々木はゴロンと下を向くと、枕に顔を押し付けた。
「え、ちょっと、翠~?それ苦しくないか?お~い……」
頑 なに顔を伏せていた佐々木は、意外と心地良い相川のトントンと撫でる手とリズムに、いつの間にかまどろみかけていた。
「翠、寝た?……はぁ~……マジやばかった……『傍にいろっ』とか、急にデレるのやめて~~~!……あ~もう!起きたら絶対抱き潰す!」
相川がトントンするのをやめて、佐々木の横でゴロゴロと悶えている様子がなんとなく伝わって来た。
おい、おまえさっきと言ってることが違うじゃねぇか!!
と思いつつも、俺のために我慢してくれていたのがちょっとだけ嬉しくて……こそばゆい気持ちに包まれながら眠りに落ちた――……
***
結局、昼まで爆睡した佐々木は、起きてから夕方雪夜たちが来る直前まで、相川の相手をする羽目になったのだった。
雪夜は気づいてなかったけれど、夏樹は佐々木を見るなり、「悪かったな、日を改めた方が良かったか?」と聞いてきたので、気付いていたのだと思う……くっそ恥ずっ!!
因みに、相川からの誕生日プレゼントは……ちょっとエッチな下着だった。
そんなもん絶対着ないっ!!って叩き返してやったけどなっ!!
***
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