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第107話 ー勇気の兄 ① 伊吹sideー
蒼が瑆からの電話を受け、和臣の車で『菊池オメガ専門病院』に向かっている時、
伊吹はフェロモンを落ち着かせる点滴を受けていた。
「菊池先生の注射は全然痛くない。どうしてですか?」
伊吹は先程刺された点滴の針を見つめる。
「まー、沢山被害者を出しながら、練習したからな」
勇気は点滴が落ちるスピードを調節する。
「実はさ、俺も伊吹くんと同じで血管見えにくくて…。注射針、大っ嫌いだったんだ。だから、自分が医者になったら、絶対、注射が上手な先生になりたくて、沢山練習した。他の人の腕で」
伊吹が横になるベッドのそばに、勇気は椅子を持ってきて座った。
「それって、菊池先生は自分の腕で練習してないってことですか?」
「そう。痛いの苦手だから」
昔を思い出したように、勇気は笑う。
「その可哀想な人たちって…」
注射の練習台なんて、なんて可愛そうな……
注射嫌いな伊吹は考えただけで、身震いしてまう。
「俺の兄さんと、中星先生。練習させてもらってた時は、二人の腕、内出血の跡だらけだったよ」
「‼︎」
楽しそうに笑う勇気を見ていると、困った顔をしながら練習台になっている瑆の姿が目に浮かぶ。
中星先生、優しいから断れなかったんだな〜。
優斗はその時の瑆と勇気の様子を想像し、苦笑した。
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