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第106話 ーー『α、Ω適応検査』③ 蒼sideーー
「中星先生…。伊吹には、いつ会えますか?」
ラット抑制剤を飲み、体力が回復するまで点滴を受けながらベットで横になっている蒼が、点滴の残量などを確認しに来た瑆に声をかけた。
「そうだね…。伊吹くんはもう大丈夫そうだから…」
瑆が言いかけた時、
「伊吹は今どこにいますか⁉︎すぐに会いにいきたいんです‼︎」
蒼は伊吹のもとに行こうと、点滴の針を抜こうとする。
「ダメだよ、蒼くん。君の体調が戻ってない」
蒼は針を抜こうとした手を、すぐ瑆に止められた。
「俺はもう大丈夫です‼︎だから、今すぐにでも…」
「蒼くんがすぐに、伊吹くんのところへ行きたい気持ちはわかる。でもまだダメだ」
それでもなお、起き上がろうとする蒼を瑆は止める。
「まだ蒼くんのフェロモンが安定していない今の状態で行けば、伊吹くんが蒼くんのフェロモンに反応するかも知れない。それは伊吹くんの体にも、蒼くんの体にも負担が大きすぎる」
「…伊吹の負担になるかも知れない…」
そんな事はさせられない…
蒼は伊吹に会いたい気持ちを、グッと堪えた。
「それに、もうすぐ『α、Ω適合検査』の検査結果もでそうなんだ。その結果を見てから、どうするか菊池先生と相談した後、面会してもらいたいと思ってるんだ」
「…」
「この点滴が終わる頃には、伊吹くんに会えるよ。だから、もう少し待ってて欲しい」
「…」
黙り込む蒼の側に瑆が腰かけ、
「本当に好きなんだね、伊吹くんのこと」
瑆は蒼に微笑みかけた。
「はい!」
蒼も少し照れながら答える。
「大切にしてね。その気持ちも、伊吹くんのことも、蒼くんの自身のことも…。それに何かあったら僕に相談してよ。菊池先生には…いいにくいだろ?」
瑆は悪戯っぽく笑った。
「点滴が終わる頃、また見に来るから。今日は疲れただろ?俺が来るまで眠るといいよ。必ず起こしてあげるから」
そう言って瑆が病室を出ると、そこへ勇気がやってきて……
「伊吹くんと蒼くんの検査結果がでたぞ」
手に持っていた検査結果が書かれた紙を、瑆に手渡した。
「蒼くんの反応や話から考えてみても、やっぱり思った通りだな。それで、どうする?これからの治療方法は…」
瑆はその紙をじっと見、そして勇気の方を見た。
「蒼くんのフェロモンの変動も見ておきたいし、二人とも通院してもらおう」
「そうだね」
瑆がもう一度、視線を落とした紙には、こう書かれていた。
『寺前 伊吹、東 蒼。二人の適合率は99.9%』
と。
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