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第109話 ー勇気の兄 ③ 伊吹sideー

「自慢の兄さんで、この病院、先先代の院長から引き継いだのも、兄さんが30歳の時だったんだ」 「…」 「…事故だったんだ…」 「⁇…事故⁇」 どうして、こんな唐突に『事故』って単語がでてくるの? 「2年前の雪の日、兄さんが車の運転中に、前に飛び出してきた猫を避けた時、車がスリップしてそのまま対向車のダンプカーと正面衝突事故して…」 「‼︎」 もしかして‼︎ 「…即死だった…」 「‼︎」 下を向いたまま話す勇気の表情は、伊吹からはわからなかったが、声が少し震えて聞こえた。 「オメガの患者さんが『もっと安心して通いやすい病院にしたい』って言うのが、口癖だったのに…」 また勇気は口籠ってしまった。 「ごめんなさい‼︎」 横になっていた伊吹は勢いよく体を起こすと、勇気に頭を下げた。 「俺が変な質問したばっかりに…」 悲しい事を思い出させてしまった。 話させてしまった…。 伊吹のそんな行動に、少し驚いた勇気だったが、 「伊吹くんが悪いわけじゃないよ。いつもはこんな話しないのに…。気を使わせてしまって、こちらこそごめん」 頭を下げ続ける伊吹の頭を、勇気はぐしゃぐしゃっと撫で、 「どうして兄さんの話、したんだろうな…」 ぽつりと呟いた。

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