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第145話 蜘蛛と巣と蝶 ④

(これは、僕が中学3年の頃だ……) 水面には中学の制服を着た柚が、公園のベンチに座り、風景を写生する姿が映し出された。 「柚、もう遅いよ。暗くなる前に帰らないと…」 夏も過ぎ、日が短くなってきて、少しずつ秋の気配が漂い出した頃。 スーツを着た孝司が、公園に柚を迎えにきた。 「え⁉︎もうこんな時間⁉︎」 孝司に声をかけられ、辺りを見回した柚は、日が落そうになっていることに驚いた。 「柚は集中しすぎると、周りが見えないから危ない…」 孝司は少し呆れ、そして少し心配そうに柚を見た。 「学園まで送るよ」 「いいの⁉︎」 「当たり前だろ。危なっかしくて、柚を1人にさせられない」 「やった‼︎」 孝司の言葉を聞いて、柚は急いで片付ける。 最近、孝司さん忙しそうだったから、全然会えてなかったし… 一緒に帰れて嬉しい。 柚の顔は綻んでいた。 「ねぇ孝司さん。今日はどうしてスーツなの?」 2人肩を並べ歩いて帰る途中、柚は孝司に聞いた。 「今日は弁護士事務所に行ってたから…」 「あ、就職先の事務所?でも働き出すのは、まだまだ先じゃなかった?」 「そうなんだけどさ、就職したらすぐに働き出せるよう、内定組は研修期間。ま、内容は楽しいからいいけど、人使いが荒い…。弁護士事務所なのに、あそこ、ブラックかもしれない……」 「ブラックな弁護士事務所…。面白いね」 柚が笑うと、 「働いてる方は、面白くないぞ」 孝司も柚につられて笑った。

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