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第146話 蜘蛛と巣と蝶 ⑤

「ところで柚。進学先は決まった?」 「‼︎……。〇〇高校……」 孝司の質問に柚は少し躊躇してから、答えた。 「?あれ?前、柚が行きたいって言ってた高校、違うところじゃなかった?」 孝司が不思議そうに柚を見ると、 「そうなんだけど…、やっぱりやめたんだ」 柚は孝司から目を逸らせる。 「どうして?あそこの高校、柚気に入ってたじゃないか。柚が専攻したい美術系に力を入れてて、写真部にだって入部したいって。写真部に有名なカメラマンが時々講師に来てくれるんだろう?だから行きたいって…。柚、なにがあったんだ?」 「…僕の実力じゃ行けないよ……」 柚はとうとう立ち止まった。 「どうして?柚の成績だと余裕じゃないか」 「あそこの学校、授業料が高いんだ。交通費だってかかる。僕のわがままで、そんな所にはいけない…」 「この前、美術の推薦枠があるって言ってたのは?」 「推薦枠、1人なんだ。僕より絵が上手な人なんて沢山いて、僕にはその推薦枠は無理だよ……」 苦しそうな表情をしながら、柚は頭を項垂れさせた。 「無理なんて言うな、柚。俺がなんとかするから、諦めるな」 孝司は柚の手を握りしめる。 「なんとかって?」 「俺の知り合いに美術の講師がいるんだ。その人に頼んでみるから、色々と専門的な事教えてもらえ。それから、俺は他に推薦枠がないか探しでる。だから柚は、行きたい高校に行くべきだ」 孝司は柚の瞳を見つめ、続ける。 「柚の事は俺が守る。だから柚は、自分のことだけ考えていればいい」 熱を帯びた孝司の瞳は、柚の心を動かし、 「うん‼︎僕、頑張ってみる‼︎ありがとう、孝司さん」 孝司の胸に飛び込んだ。 すると、また水面が揺らぎ………

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