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第147話 蜘蛛と巣と蝶 ⑥

(あ………。僕の一番嬉しかった記憶……) いつもデッサンする時よく通った公園のベンチに座り、桜が咲き誇る中、孝司に呼び出された柚は、孝司の事を待っていた。 いつもと違う孝司の呼び出しに、真新しい制服を着た柚はソワソワしていた。 電話越しに聞こえた、孝司さんの緊張した声。 何かあるのは確かだけど… 悪いことだったら、どうしよう…… 柚の不安がピークに達しようとした時、 「柚‼︎」 遠くから走ってくる孝司の姿が、柚の目に飛び込んできた。 「孝司さん!どうしたの⁉︎そんなに急いで…」 息をハァハァさせながら走ってきた孝司に、柚は持っていたペットボトルのお茶を手渡した。 「ごめん…、呼び出して、おいたのに…遅…れ、て…」 孝司は柚から手渡されたお茶を一口飲んだが、まだ息が切れる。 そんなに息が切れるぐらい走ってきてくれてたなんて…… 柚はなんだかちょっと嬉しかった。

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