145 / 194
第147話 蜘蛛と巣と蝶 ⑥
(あ………。僕の一番嬉しかった記憶……)
いつもデッサンする時よく通った公園のベンチに座り、桜が咲き誇る中、孝司に呼び出された柚は、孝司の事を待っていた。
いつもと違う孝司の呼び出しに、真新しい制服を着た柚はソワソワしていた。
電話越しに聞こえた、孝司さんの緊張した声。
何かあるのは確かだけど…
悪いことだったら、どうしよう……
柚の不安がピークに達しようとした時、
「柚‼︎」
遠くから走ってくる孝司の姿が、柚の目に飛び込んできた。
「孝司さん!どうしたの⁉︎そんなに急いで…」
息をハァハァさせながら走ってきた孝司に、柚は持っていたペットボトルのお茶を手渡した。
「ごめん…、呼び出して、おいたのに…遅…れ、て…」
孝司は柚から手渡されたお茶を一口飲んだが、まだ息が切れる。
そんなに息が切れるぐらい走ってきてくれてたなんて……
柚はなんだかちょっと嬉しかった。
ともだちにシェアしよう!