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 画面には、衣類を何一つ身に纏わず、複数の同性に体中を弄りまわされている青年の姿が映し出されていた。  映像の中の青年は、口をすぼめて、尻穴を締めて、さらには両手で輪っかを作って動かし、全身を使って男達の相手をしている。  一応の配慮なのか、青年の目元にはモザイクがかけられていた。しかしそれでも、大勢に辱められて感じていることがよくわかる。加えて、両膝を曲げて大きく広げたつま先立ちの蹲踞状態で下から突き上げられて、モザイクがかかっていてもわかるほどのアヘ顔で喘いでいる姿は、淫乱以外の何物でもない。 『ん、ぅ……っ♡ あ゙っ♡』 『早くしろよ、肉便器として機能してねえぞ』 『んお゙ッ♡♡♡』 『こっちが疎かになってるね、ちゃんと手コキも頑張ろうね』 『たくさんのちんぽに囲まれて嬉しい?』 『さて、そろそろお楽しみのザーメンシャワーの時間だ』 『ぐ、ゔぶっ♡ ン゙ッ♡ ゔ、っん゙~~~っ♡♡♡』 『あー……出る、出るっ、出すぞっ』 『お゙、え゙ッ、ゔっ♡』 『お仕事出来て偉いね、便器なんだからごっくんも出来るかな、当然出来るよね』 『そっちが終わったらこっちも掃除よろしく』 『……ひゃ、い♡♡♡』  蕩けきった表情で青年が頷き返す。周囲の男達が立ち位置を変えて、先程とは違う人物が青年の下にもぐりこみ、尻穴に陰茎をねじ込んだ。そして再び激しい突き上げが始まると、先程まで自らの後孔に突っ込まれていたであろう、精液などで汚れた陰茎を口内へ迎え入れて、ぺろぺろと舐めあげていく。いわゆるお掃除フェラというやつだ。  しばらくすると、突き上げに耐え切れなくなった青年が、手と口で相手をしていた陰茎を離し、両手を床についてバランスを崩してしまう。すると、それを咎めるように、羞恥心をくすぐるような言葉を投げて、青年をさらに辱めていく。  それは、青年が上から下までありとあらゆる液体でどろどろになって、気絶するときまで続けられた。 * * * 「~~~ッ……!」  どくどくどくっと手の平に精液を吐き出すと、さらに後ろに手を這わして、尻穴を埋めている極太ディルドに手をかけた。たっぷりのローションで潤ったそれをずるずるっと抜いていくと、君野聖は悩ましげなため息をついた。  ここ最近、オフの日とか関係なく、毎日抜いている。しかも、オカズは決まって、ひとりが寄ってたかって辱められる複数物のゲイ動画。最初の頃に抜きネタとして見ていたような、恋人同士の甘々シチュエーションからはだいぶかけ離れた、ハード物に好みが偏っている。  そんな自分の性癖が、かなりねじ曲がっているという自覚はある。  自身の性嗜好が同性に向いていることに気が付いたのは、高校生の頃だった。  体育の時間、着替えている友人達の体に自然と目がいって、自分の嗜好に気が付いた。それまで、好きな相手が出来たことがなければ、恋人を作ったこともなかった。だからこそ、性嗜好を知ったときには、なるほどなと思った。恋愛ごとに、全く興味がないわけではなく、それを向けようとする相手が違っただけなんだなあと。  特殊性癖持ちだと知ったのは、そういったアダルトビデオを見て自分の好みを探っているときだった。性交の経験は相手の性別問わず一度もなかったため、画面の中のフィクションの世界が聖にとっての全てだった。  いわゆるゲイ物のジャンルは、大体学んだ。アイドルをやっていそうな細身の綺麗な二人が交わっているもの、やんちゃしてそうなオラオラ系が啼かされているもの。それはもう、いろいろなものを見た。あまり細身すぎても壊れてしまいそうで興奮出来ないため、ガタイの良い男達が交わっているものが好みだった。  その中でも、特に刺さったのが陵辱物だ。しかも前述の通り、拘束・露出・恥辱・SM――といったかなりハード目なもの。それらを見ているときに、ふと思ったのだ。  ああ、この人のように、自分も人から辱められたりいじめられたり、無様な姿を笑われたい。  そう思ったときに改めて、自分が挿入されたい側であることを自覚した。  諸々を理解した頃から今までの間で、自らのそういった嗜好はもちろん、ゲイであることを人に明かしたことは一度もない。大学生になって、合コンに誘われても予定があるからと断ったり、なにかあれば適当にかわしたり、そんな感じの毎日だった。  学生生活が落ち着いて社会人になったら、そういった店に足を運んでみるのもいいかもしれないなんて先延ばしにしていたら、完全に機会を逃してしまったのである。そんな風に考えていた時期が、最早懐かしい。  ベッドの上でごろんと寝返りをうつと、繰り返しため息が漏れた。  近頃、毎日欠かさず抜いても、どうしても溜まるのだ。ひとりで過ごしている時間なんかは、とにかくムラムラする。それが最近の主な悩み事だ。狂ったようにオナニーしているのに、それでもなお発散出来ない理由にも、実のところ気が付いている。  自分も、画面の中の青年のように、現実世界で辱められたりいじめられたりしたいのだ。動画の中で無様な姿を晒す同性の姿に、自分自身を重ねている。  ――こんなことになるなら、大学生の内にパートナーや恋人を作っておくべきだった。いやでもだって、まさか自分が、体操のお兄さんなんて、そんな表舞台に立つ職業に就くなんて思っていなかった。子どもたちの手本になる身として、品行方正を意識して、誰が見ても模範的な生活を送らなければならない。そんな職業の自分が、適当な店で相手を探すような『男漁り』を出来るはずなんてない。  結局はこの考えにたどり着く。今日もまた、ため息をつきながらスマートフォンを開いて、翌日の撮影内容確認を行う。

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