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第三章 ある事件

「先生のおかげで、志望校がB判定になった、と大翔さんが喜んでおられました」 「いえ、彼がよく頑張ってるからです」  車の中で話すことは、全く健全な内容だ。  色事を匂わせるような征生ではなかった。 (でも、さっきまで僕がその大翔くんに抱かれてたこと、気づいてるよね)  この端正な顔で、真面目な表情で、楓の痴声を聞いているのだ。  嬉しそうな、大翔の唸り声を聞いているのだ。 (もう、恥ずかしくて泣きそう……) 「どうかなさいましたか?」 「え?」 「いえ、先生のお元気が無いようですので」 「そんなこと、ないですよ! あ、ちょっとコンビニで止めてください」  楓は、車中に征生を残し、一人でコンビニへ立ち寄った。  すぐにトイレに駆け込み、涙を拭う。 「あんまり、優しくしないで欲しいな。泣いちゃうじゃん」  水で目を冷やし、楓は一応コンビニ内で飲み物や菓子を買った。  何も買わずに車に戻ると、征生に怪しまれると思ったからだ。  しかし、レジを済ませて外に出ると、くぐもった悲鳴が聞こえた気がした。

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