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第四章 大人の恋
楓と向き合い、征生は心臓が止まりそうだった。
『今夜は、泊って行ってくれませんか?』
確かに楓は、そう言ったのだ。
「それは、つまり」
「全部は、言わせないでください……」
楓の両肩に、そっと手のひらを乗せると、細かく震えている。
背伸びをして、瞼を閉じる楓。
吸い寄せられるように、征生はその唇に触れようとした。
だかしかし。
「いけません、先生」
すんでのところで、踏みとどまった。
「どうしてですか?」
縋るような瞳が、哀しい。
「先生は、大翔さんの……」
ああ、やっぱり。
楓は、泣いた。
やっぱり、知ってるんだ。
僕が、大翔くんと関係してること。
「泣かないで。いつものように、笑って見せてください」
「僕を、汚れた人間と思いますか?」
「馬鹿な。先生は、私の知る中で最も清い人です」
楓が、さらに勢いよく伸びをした。
柔らかな唇が、征生のそれに重ねられた。
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