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第五章・7

「先生、俺、今日初めてダチができてさ」 「ダチ? 友達のこと?」  うん、と大翔は楓の体を汚したローションや体液を、ウェットティッシュで拭きながら話した。 「すっげえ冴えない奴。でもさ、何か放っておけなくってさ」 「優しいんだね、大翔くん」 「えへ! そう?」  楓はうっすらと自覚した。  この少年に身体を許すのは、何もヤクザの息子だからだけではない、ということに。  征生を愛する一方で、この憎めない年下の少年のことも愛しているのだ。  明るく、優しい大翔くん。  ワルぶってはいるけれど、心根は素直な大翔くん。  そんな大翔が、いずれはこの組を背負って立つことが、楓には痛ましかった。  眉一つ動かさずに、人を不幸に陥れる家業を継ぐことが、耐えられなかった。 「大翔くん」 「ぅん?」 「その優しさ、いつまでも忘れないでいてね」  楓はそう言い残すと、静かに勉強部屋を後にした。

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