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第六章・7
「また安いワインを買って」
「……」
楓の買ったワインを傾け、チーズをつまみながら征生は笑った。
だが、沈黙したままの楓に、真顔になった。
「楓、怖いか? 俺が。ヤクザが」
黙って、うなずく楓。
征生は、溜息をついた。
「……征生さんは、大丈夫ですか?」
「ぅん?」
「ケガ、してませんよね」
「あんなチンピラに、かすり傷ひとつ付けられるものか」
それより、と征生は身を乗り出した。
「楓は? 奴らに犯されたりしてないな?」
「征生さんが、助けに来てくれたから」
でも、と楓はそこでようやく顔を上げた。
「他の組の人とケンカになっても、大丈夫なんですか? 征生さん、以前言いましたよね」
『私の名を出せば、今度は組同士の諍いになりかねません。そこで、逃げるしかなかったのです』
「征生さん、困った立場に立たされませんか!?」
僕のせいで。
楓は、涙声だった。
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