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プロローグ
前にならえ。
それはまさに悪魔の呪文。
先頭に立つ人間だけが、腰に手を当て隣との距離感の基準にされながら待機を命じられる。
篠原 天樹 、高校1年。
生まれてこの方15年、俺はこのポジションを死守し続けている。
したくもないのに!
まさに、所変われど品変わらず。
真っ赤に燃える短い髪をワックスで立たせ、眉ナシ!ピアス!それから着崩した制服!
こちらは用意周到、準備万端に誰からも一目置かれるようなヤンキースタイルで決めているってのに。
全校朝礼で並ばされた俺の耳には、諸先輩方、特に女子生徒から「ちっちゃーい」の声が飛び交った。
完全にナメられている。
それもこれも、チビの父親とドチビの母親から生まれた劣性遺伝子せい。
朝礼中、かかとを浮かせ続けた俺の屈辱。
今まで経験した、数多ある恨み辛み。
しかし、それも今日でサヨナラ。
俺は人の上に立ち、硬派で立派な男としての高校生活をスタートする。
中学までの俺を知る人間は皆無。
新しい人生の幕開けだ。
俺は旧校舎最上階の最果てにある、真っ黒な扉をドンドンと叩いた。
「入部希望するッ!!」
部を制すれば、1から3年まで一網打尽。
クラス一つ一つにその名を轟かせるより、随分と手っ取り早い。
何度も拳を叩きつけた扉が、ギギギギギ、と不穏な音を立て開いた。
『明るく健全な良い子の呪詛クラブ。部員募集中』
明るく元気に、健康的に人を呪いましょう。
扉にはそんなことが書かれていた。
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