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Ⅰ 世界よ、我に跪け!①

「はい。それでは今後ともよろしくお願いいたします」 「こちらこそ、お時間を頂きましてありがとうございます。とても興味深いプロジェクトだと思います」 「そう仰って頂けますと、発案者としてとても嬉しいです」 「是非、御社と業務提携をと考えております」 「そこまで評価して頂けますと、少し照れてしまいますね」 「本当の事です。持ち帰り、上の者に報告させて頂きます」 「よろしくお願いいたします」 「次にお会いする時は、必ず良いお返事を」 「そうですね。プロジェクトのパートナーになれるよう進めて参りたいと思います」 「本日はありがとうございました」 「こちらこそ、ありがとうございました」 テーブルには、コーヒーカップが二客。 片方のカップには飲みかけのコーヒー。 冷めたコーヒーがカップの底で、黒い水面をゆらゆら、たゆとわせている。 ………………クッ ガタンッ 誰の目から見ても明らかな拳をテーブルに叩き付けた。 ダーク系スーツに身を包む物腰柔らかな民間企業の一社員とは、到底思えぬ行動である。 周囲に人の目がなかったのが幸いか。 (見られたって構うものか) ブランドのスーツも。 華やかな経歴も。 美辞麗句も。 所詮、取り繕うものにすぎない。 外面という体裁だ。 人という名を被っているだけの事である。 (俺の本質は、悪) 俺が欲しいのは、お前だ。 各務 隆哉(かがみ りゅうや) お前の頭脳が欲しい。 どうしても欲しい。 お前を欲している。 (なぜ分からない?) 企業とか、業務提携とか、そんなものはどうでもいいんだ。 資金ならある。 だが、資金を活かせるものがない。 ゆえに研究者としてのお前自身の頭脳を欲しているんだ。 (お前になら、いくらでも投資してやる) 会社や社会などというしがらみを振りほどいて、こちら側に来い。 あぁ、そうだ。 いずれ、お前にも分かる時が来るだろう。 このレンタルスペースは、俺に似つかわしくない。 俺は世界の運命を廻す者。 玉石ルフラン株式会社……なんてものは、そもそも存在しない架空企業だ。 俺は、世界の運命を示す者。 平和という名の果実の享受に甘え、堕落した世は、もうすぐ終わる。 (俺が変える) フフフ…… 「我が名はルフラン……」 世界の理を変える者。 跪け、世界! 我が膝元に。頭を垂れ、服従を誓え! 生きとし生けるものどもよ。 フフフフフ…… 「この世界は、悪の秘密結社ルフラン総帥 ルイ・エル・ド・ルフランが支配するのだ!」 フハハハハハハァァァーッ!! 白いテーブルには、飲みかけのコーヒーカップ。

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